- 著者
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大熊 信行
- 出版者
- 高岡高等商業學校研究會
- 雑誌
- 研究論集
- 巻号頁・発行日
- vol.12, no.1, pp.85-98, 1939-06-20
すでにわれわれは第一論および第二論において、『正義』の問題がラスキンの所説の根幹であることを承知した。たとへば雇主と勞働者の利害對立の問題に關して、かれの説くところはすでに正義の間題であった。あらゆる人間の行動の規準は窮極において利害得失の計量にあるのではなくて、『正義の計量』にあるといふのがかれの主張だった。貧富關係の成立に關する根本間題も「抽象的正義』の問題に歸し、商取引の方法に關する問題もおなじく正義の問題に歸するといふことは、これもまた一應われわれの見たところであった。しかるに第三論『地の審判者よ』にいたつては、前二論において顱頂をあらはしてゐた正義の問題が全面的に取扱はれた觀がある。しかも冒頭に引きだされたものは舊約の箴言すたはちソロモンの言葉であり、そしてソロモンの富に關する格言の解釋が第三論の出發點をなしてゐるといふにいたつては、多少なりとも理論的な分析の態度を延長してこれを追究しようといふ希望も放棄せざるをえない。われわれぱしばらくラスキンの正義について説くところをその言葉のまゝ讀まなければならぬ。