- 著者
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姜 明采
Kang Myungchae
- 出版者
- 神奈川大学日本常民文化研究所 非文字資料研究センター
- 雑誌
- 非文字資料研究 = The study of nonwritten cultural materials (ISSN:24325481)
- 巻号頁・発行日
- vol.14, pp.275-319, 2017-03-20
大正期は、(短い間であったにもかかわらず社会全般に大きな変化をもたらしており、こうした変化に影響を受けた建築界でも、)新しい建築への数多くの試みとして様々な建築様式が登場してきた時期である。本稿は、こうした大正期における建築デザインの動向を検討するため、1924(大正13)年12月22日より1925(大正14)年2月28日まで実施された震災記念堂の設計競技に注目した。震災記念堂の設計競技応募図案は現在、全221案のうち設計競技の当選図案図集である『大正大震災記念建造物競技設計図録』に掲載された36案の当選図案と、震災記念堂の収蔵庫に収蔵されている39案の選外図案の75案が残存している。設計競技の当選図案とこれまで公開されていなかった選外図案の外観デザインを対象に、当時流行した建築デザインの要素とその傾向を考察することを本稿の研究目的とした。立面図や透視図などで外観の形状がわかる74案の応募図案を古典主義風、表現主義風、アール・デコ風、モダニズム風、和風、東洋風の6つのデザイン様式に分類し、各様式で最も多く見られたデザインの要素をまとめた結果、以下のことが明らかとなった。 まず、全体的な外観形状としては、不要な装飾的要素を抑え、ジッグラト風デザインや直線を多く用いて垂直性を強調した計画が多く見受けられた。また、ドーム屋根に左右対称の縦長開口部を多く用いた古典主義風の塔の形状とした「コンペティションスタイル」との類似性も見られ、すっきりしたモダンなデザインと均衡が取れた古典主義風デザインが共存していた様子がうかがえた。更に、その細部には、単純幾何学的装飾の反復と変形アーチの開口部などの装飾の要素を設けられ、設計者の個性を発揮したことが考えられる。こうしたシンプルな外観と個性的な細部装飾のデザイン要素から、大正期における建築デザインの動向が読み取れたと考えられる。