著者
野沢 慎司
出版者
東京都立大学都市研究センター
雑誌
総合都市研究 (ISSN:03863506)
巻号頁・発行日
no.56, pp.73-92, 1995

これまで都市家族の研究のなかで比較的等閑視されてきた、家族とコミュニティの相互関連をめぐる問題(家族・コミュニティ問題)へのアプローチとして、とくに夫婦間の援助関係と世帯外援助ネットワークとの関連に焦点を据えた分析を試みる。北米都市での調査知見に基づく仮説は、パーソナル・ネットワークとしてのコミュニティが居住地域や連帯性から解放されることによって、夫婦関係を分離的にするような世帯外ネットワークからの影響(競合説)が消失し、世帯内のニーズに従って(ニーズ説)、夫婦間の援助関係を前提として世帯外のネットワークから援助が動員される(両立説)状況が生み出されたと主張している。現代日本の都市家族にもこのモデルが妥当するのかどうかが検討される。東京都調布市に居住する比較的若年の既婚女性を対象とした調査票調査のデータ分析から、基本的にはニーズ説、両立説が支持される結果が得られたが、部分的には競合説を支持する結果やニーズ説に包摂しきれない結果が得られた。とくに育児期の妻の近隣ネットワークと夫からの家事援助との間には、競合的な状況が現れやすい。この点は、最近の他の調査知見と照らし合わせてみると、ネットワークの一部が世帯外から夫婦関係を規定する力を失っていないことを示唆している。こうした知見は、多角的なネットワーク測度を使った家族・コミュニティ研究によって、比較社会学的な文脈から、さらに検討される必要がある。

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