著者
野沢 慎司
出版者
福祉社会学会
雑誌
福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.67-83, 2020-05-31 (Released:2021-06-23)
参考文献数
46
被引用文献数
1

ステップファミリーは独自の構造をもつ家族であるにもかかわらず,「通念的家族」(初婚核家族)を擬装せざるをえないほどの社会的圧力に曝されてきた. 誰が「親」かの規定に関わる社会制度(離婚後の単独親権,継親子養子縁組,戸籍などに関する法律)や通念的家族観が, 大人たちの行動を水路づけ,子どもたちの福祉に影響を及ぼす. しかし,この点に研究者の関心が十分向けられてきたとは言えない. そのような多数派/従来型のステップファミリー(「スクラップ&ビルド型/代替モデル」)では, ①親子関係の前提として婚姻関係の存在が優先されること,②離婚後に両親の一方の存在と価値が無視(軽視)されること, ③継親がその親を代替すること,④親権親と継親が対等に共同して子どもの養育にあたること, ⑤ステップファミリーは共通の利益を有するメンバーで構成される世帯集団とみなされること, などが自明視されてきた.新たに登場した「連鎖・拡張するネットワーク型/継続モデル」の理念と対比させて, これらの前提を批判的に検討する.そして,子どもの福祉を重視した社会制度に向けての課題, およびステップファミリーの新しい支援の方向性を提示したい. ステップファミリーの子どもたちの福祉を向上させる社会的条件を探るさらなる研究が求められている.
著者
和泉 広恵 野沢 慎司
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.34-37, 2017-04-30 (Released:2018-06-18)
参考文献数
5

近年,家族社会学においては,「家族」の多様化と意味変容に関する研究が蓄積されている.一方で,様々な領域において「家族」がその外側からの介入/支援を受け入れ,それによって維持・再編されるようになってきた.そこで,本シンポジウムでは,「家族」に対する専門家という第三者の介入が,精神保健・司法・福祉の各領域においてどのように実践されているのかを検討し,家族社会学の新たな展開の可能性を論じることをねらいとした.本シンポジウムでは,中村伸一氏(家族療法家),原田綾子氏(法社会学),中根成寿氏(福祉社会学)の3名の報告に対し,天田城介氏,松木洋人氏からのコメントが行われた.オーガナイザーおよび司会は,和泉広恵・野沢慎司が務めた.
著者
野沢 慎司
出版者
東京都立大学都市研究センター
雑誌
総合都市研究 (ISSN:03863506)
巻号頁・発行日
no.56, pp.73-92, 1995

これまで都市家族の研究のなかで比較的等閑視されてきた、家族とコミュニティの相互関連をめぐる問題(家族・コミュニティ問題)へのアプローチとして、とくに夫婦間の援助関係と世帯外援助ネットワークとの関連に焦点を据えた分析を試みる。北米都市での調査知見に基づく仮説は、パーソナル・ネットワークとしてのコミュニティが居住地域や連帯性から解放されることによって、夫婦関係を分離的にするような世帯外ネットワークからの影響(競合説)が消失し、世帯内のニーズに従って(ニーズ説)、夫婦間の援助関係を前提として世帯外のネットワークから援助が動員される(両立説)状況が生み出されたと主張している。現代日本の都市家族にもこのモデルが妥当するのかどうかが検討される。東京都調布市に居住する比較的若年の既婚女性を対象とした調査票調査のデータ分析から、基本的にはニーズ説、両立説が支持される結果が得られたが、部分的には競合説を支持する結果やニーズ説に包摂しきれない結果が得られた。とくに育児期の妻の近隣ネットワークと夫からの家事援助との間には、競合的な状況が現れやすい。この点は、最近の他の調査知見と照らし合わせてみると、ネットワークの一部が世帯外から夫婦関係を規定する力を失っていないことを示唆している。こうした知見は、多角的なネットワーク測度を使った家族・コミュニティ研究によって、比較社会学的な文脈から、さらに検討される必要がある。