- 著者
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成田 凌
- 出版者
- 首都大学東京・都立大学社会学研究会
- 雑誌
- 社会学論考
- 巻号頁・発行日
- no.39, pp.1-27, 2018-11-30
近年,「田園回帰」と呼ばれる都市住民の農山漁村への関心の高まりが指摘されている.過疎地域を含む条件不利地域では,当該地域の持続・存続という観点からもこの動向が今後も継続し,将来的に移住や定住へとつながっていくのかに注目が集まっている.そこで本稿では,「田園回帰」における移住・定住を議論するための予備的考察として,「田園回帰」以前の移住者の定着過程について分析をおこなう.首都圏内の過疎山村である檜原村において,自身も移住者でありながら,最近の移住・交流希望者を呼び込んでいるキーパーソンの一人である,女性地域リーダーのY氏を事例とする.係累のない移住者であったY氏が檜原村やA集落に定着できた背景には,次の2点があった.一つは,同じような境遇に置かれていた女性たちと一緒に,生活環境を変えていくために自主保育などの様々な活動に取り組んできたこと.もう一つは,Y氏の「地域を大事にする」ことを重視していることである.かつて地縁・血縁関係の強い「男社会」だった檜原村も,現在では移住者が比較的容易に地元住民の暮らしに馴染める土壌が醸成されているという.その契機の一つとして,彼らの一つ上の世代であるY氏らの取り組みがあったと捉えることができるだろう.そしてまた,このようなY氏の定着過程に,過疎山村集落の持続可能性の議論に求められる要素が見出せるのではないだろうか.