著者
酒井 潔 Kiyoshi Sakai
出版者
学習院大学人文科学研究所
雑誌
人文 (ISSN:18817920)
巻号頁・発行日
no.8, pp.7-20, 2010-03-28

"ライプニッツのcaritas 概念は、一方で伝統的なキリスト教の立場に、他方で十七世紀の啓蒙主義の時代思潮にそれぞれ連続する面を有する。「正義とは賢者の慈愛である」(Justitia est caritassapientis)、そして「慈愛とは普遍的善意(benevolentia universalis)である」というライプニッツの定義には、キリスト教的な「善き意志」のモチーフとともに、(プラトニズム起源のものだけではない)近代の合理主義的性格が見出される。ライプニッツは彼の政治学、ないし政治哲学の中心にこのcaritas 概念をすえている。それは彼の「社会」(societas)概念とも密接にリンクしつつ、今日の社会福祉論への射程を示唆する。ライプニッツの「慈愛」、「幸福」、「福祉」(Wohlfahrt)という一連の概念のもつ広がりは、アカデミー版第四系列第一巻に収載されている、マインツ期の覚書や計画書に記載された具体的な福祉政策(貧困対策、孤児・浮浪者救済、授産施設、福利厚生など)に見ることができる。しかしcaritas 概念の内包を改めて検討するならば、caritas 概念の普遍性と必然性は、その最も根底においては、ライプニッツの「個体的実体(モナド)」の形而上学に基礎づけられている、ということが明らかになるであろう。

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