著者
森下 宏美
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.51-62, 2006-11-29

1834年の新救貧法制定に導いたとされるタウンゼンドやマルサスの思想は,救貧法の「廃止」を唱えるものであったが,古典派経済学の立場もまた事実上の「廃止論」として論ぜられる傾きがある。しかし,1820年代後半には,それまでの「改革論者」対「廃止論者」の論争は,異なったタイプの「改革論者」同士の論争にとって代わられており,古典派経済学の内部にも,「よく管理された救貧制度はどのようなものであるべきか」をめぐる多様な議論が生まれていた。シーニア,マカロク,スクロウプは,それぞれに救貧法の「改革」を論じている。彼らは,旧救貧法の原理に対する理解,貧民の被救済権を承認することの是非,救貧行政における納税者および教区の役割の評価,労働能力者への院外救済が勤勉と慎慮の形成に及ぼす影響等について異なる見解をとりながら,独自の「改革」論を展開している。古典派経済学者を「改革論者」として描くにしても,旧救貧法の諸原理を擁護する立場を農村的パターナリズムの「反改革論者」とみなしてその対極に置くような見方は退けられなければならない。

言及状況

はてなブックマーク (1 users, 2 posts)

収集済み URL リスト