- 著者
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高橋 吉文
- 出版者
- 北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院
- 雑誌
- メディア・コミュニケーション研究 (ISSN:18825303)
- 巻号頁・発行日
- vol.56, pp.1-53, 2009-07-31
グリム童話は、ある特定の記号(コード)の反復から組み立てられていることが基本であるが、そこにおいてとりわけ際だつもののひとつが、〈切断〉コードの反復である(第1章)。しかし、記号という一見人工的にみえるものの基底には、古代や太古の昔に遡りうる民俗的・神話的な思惟がとぐろを巻いている。その〈切断〉コードとも深く関わる人頭・生首信仰もその一例である。本論第2章では、人頭崇拝の普遍的広がりの確認を導入として、西洋文化の二大源流地中海とケルト等に顕著な人頭崇拝例と、西洋世界におけるその強靱な呪縛系譜(西洋人=首狩り族)を示す。その後、口承世界における生首嗜好の世界的広がりをまずは示した上で、頭部に呪力を感じる神話的思考の存在、及び口承物語におけるその展開を継承した民衆昔話のひとつ『子どもと家庭のための昔話集(グリム童話集)』(KHM)において、〈斬首〉コードがどのように反復され、メルヘンを構成しているかを確認する。KHM47「ねずの木」では〈斬首〉コードの反復とシンメトリー構成を簡潔に示し、斬首され門壁に釘で打ち付けられた馬頭が王女と言葉をかわすKHM89「鵞鳥番のむすめ」では、その〈斬首〉コード反復が、古代ゲルマン人の馬頭信仰という歴史的事実や神話的思惟にいかに強く裏打ちされていたかを明らかにする。