- 著者
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池上 素子
- 出版者
- 北海道大学留学生センター = Hokkaido University International Student Center
- 雑誌
- 北海道大学留学生センター紀要
- 巻号頁・発行日
- vol.4, pp.1-17, 2000-12
本稿では、3分野の論文(フルペーパー)コーパスの分析に基づき、変化を表す「なる」が学術論文においてどのように用いられているかを考祭した。分析の結果明らかになったことは主に次の3点である。1)理科系である機械工学・農学では「なる」に前接する語が偏っているが、文科系である社会科学ではかなり分散して多様な語が用いられている。2)理科系の中の機械工学と農学でも、ナ形容詞で頻出する語、動詞の形態などの点で違いが見られる。これは、自ら働きかけて何かを作り出したり改善したりすることが主である人間制御型の機械工学と、ある現象を長期間にわたって観察することが主である現象観察型の農学との、基本的な研究姿勢の違いによると思われる。3)その一方で、3分野に共通して現れる語や句も幾つか見られる。上記1)~3)から「なる」に関して2つの可能性が示唆される。一つは、語レベル、句レベルでそれぞれの分野の研究姿勢を反映した違いがあるという事実から -文章が有機的に結びついているものである以上- 文レベル、談話レベルにおける分野毎の特徴が存在する可能性があることである。二つ目は、その一方で、全ての分野に共通して現れる語や句があることなどから、分野を超えて学術論文が共通して持つ特徴が存在する可能性があることである。