- 著者
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河口 明人
- 出版者
- 北海道大学大学院教育学研究院
- 雑誌
- 北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
- 巻号頁・発行日
- vol.112, pp.1-26, 2011-06-30
要旨】文化は「遊び」の中から発生し,日常を超えた「遊び」は自由な創造性の根源であり,文明の駆動力である。ギリシャ社会が獲得した宗教的生活の核心的象徴である祭典は,互いに死力を尽くす戦闘状態にあったポリス間の一切の戦闘を禁止するという驚くべき秩序を保って継続された。それは,宣戦布告もない不断の戦闘状態に晒される精神的緊張と抑圧からの解放であるとともに,アゴン(競争)によって,常に他者を凌駕しようと意欲したギリシャ人の善と美を創造する身体への憧憬の源泉でもあった。祭典がテストしたのは,人間の境界を越え行く精神と身体が一体化したアレテー(卓越性)である。ポリスの命運に自由な生存を託し,最善を尽くさんとする不滅の行動原理を堅持したギリシャ人は,感性に支えられた生存の意思(生き甲斐)によって生命を意義づけた歴史的民族であった。