- 著者
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白水 浩信
- 出版者
- 北海道大学大学院教育学研究院
- 雑誌
- 北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
- 巻号頁・発行日
- vol.126, pp.139-154, 2016-06-30
近年の研究の進展により,‘education’を「引き出すこと」とする教育学神話から離れて,語の本来の歴史が解明されつつある。‘education’とはラテン語 educere(引き出す)ではなく,人間,動物,植物にまで用いられた educare(養い育てる)に由来する。本研究は educare の用例を古典ラテン語文献に求め,用いられた文脈,語義を明らかにすることを目ざすものである。
本稿では,ラテン語文法書における educare の語釈に焦点を絞って検討する。ノニウス・マルケッルス『学説集』とエウテュケスの『動詞論』を取りあげる。これらは中世においてラテン語文法の教科書として利用され,重要な史料である。両者ともに,educare を nutrire(栄養を与える)として理解している点は特筆すべきである。また,古代末の文法学者がeducareを educere と区別していた点は強調されてよい。