- 著者
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伊勢田 哲治
Iseda Tetsuji
- 出版者
- 応用倫理学研究会
- 雑誌
- 応用倫理学研究
- 巻号頁・発行日
- vol.3, pp.1-17, 2006
功利主義者たちは戦争の問題について何を言ってきただろうか、そして彼らの議論から我々は何を学ぶことができるであろうか。歴史を振り返るならば功利主義の戦争論としてはベンサムやシジウィックの著作があり、近年においてもR.M.ヘア、リチャード・ブラント、ジョナサン・グラバー、ピーター・シンガーらがそれぞれ数本の論文を発表している。本論文では、そうした文献の中でも、特に現代の著作を紹介・検討することを通じて、戦争倫理における功利主義的思考法の利点と欠点について考える。戦争と倫理の関わりについては、大きくわけて、戦争を始めるのが正当化されるのはどういう場合なのか、あるいはそもそも正当化される戦争などないのか、をめぐる論争と、戦争の中ではどういう行為が許されてどういう行為が戦争といえどもゆるされないのか、を巡る論争がある。本論文では、まず、正戦論についての功利主義者たちの議論を紹介し、次に戦争の規則についての彼らの議論を紹介する。そののちに、戦争倫理学における功利主義的思考の利点、正戦論と戦争の規則を明確に区分することの意味、個々の戦争について功利主義者が発言する際に気をつけるべきことなどについて論じる。