著者
寺戸 淳子
出版者
東京大学文学部宗教学研究室
雑誌
東京大学宗教学年報 (ISSN:2896400)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.13-26, 1997-03-31

聖母マリアの出現をきっかけに十九世紀に誕生したカトリックの聖地ルルドは,泉の水による奇蹟的治癒によって広くその名を知られ,多くの巡礼者を集めてきた。だがこの「病める者達の聖地」が歩んできた歴史を見てみると,それが「信仰治療」や「病治し」という言葉で一括される現象とは一線を画する一連の運動の総体であったことが明らかになってくる。ルルドを他の病治しの聖地と分かつものの一つが「医療局Bureau Medical」(旧「医学審査局Bureau des constatations medicales」)の存在である。ここでは教会権威による奇蹟的治癒の認定に先立ち,病が癒えたと申告してきた人物の旧-病状,治癒の経緯,快復の事実の有無を調査し,当該治癒が科学的に説明不可能であるかどうかを審議する。ルルドを訪れるあらゆる医師に門戸が開かれており,聖域に雇われた医師が医療局長として活動の全責任を負っている。この機関の存在は次のことを意味する。第一に,医師が聖域の委託をうけ聖域のためにその内部で活動しているということ,第二に,この機関が存在することで,ルルドを訪れる医師たちは個人的な立場ではなく医師という専門家の集団としてルルドに相対し,医学界として聖地と関わることになる。本稿ではルルドを特微づけるこの医師団の存在に注目し,聖地の歴史における医師の役割と位置づけを検討することで,ルルド巡礼における医師と傷病者の関わりを考察するものである。筆者はルルドにおける傷病者巡礼の歴史と聖地における傷病者の位置づけの分析を,聖域空間における傷病者の位置づけ,傷病者巡礼の成立史,という二つの切り口から行ってきたが,本稿はそれに続くものである。

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