著者
寺戸 淳子
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.83, no.2, pp.551-575, 2009

地縁的・職能的結合関係が解体された革命後のフランスでは、貧困層の出現という形で社会問題が発生した。人権に基づく公的扶助や連帯主義による解決を目指す共和派に対し、カトリック世界では労働組合運動を中心とする男性による社会的カトリシズムと、女性が行う伝統的慈善による対処が試みられた。そのような動きを背景に貧困層の社会統合を目指して始まったルルド巡礼の現場では、徐々に社会的カトリシズムがもつ討議的性格と慈善がもつ党派的性格が弱まり、「他者への配慮」を優先する「傷病者の現れの空間」が確立されていった。本稿では、「正義と権利」を重視する男性的倫理的態度のみを評価する道徳理論に対し、「配慮と責任」を重視する女性的倫理的態度の復権を唱えるギリガンの理論を参照しながら、ルルドの傷病者支援活動を通して生まれた「ディスポニーブル」という「他者に主導権を預けた行動規範」の、意義と可能性を考察する。
著者
磯前 順一 小倉 慈司 苅田 真司 吉田 一彦 鍾 以江 Pradhan Gouranga 久保田 浩 山本 昭宏 寺戸 淳子 岩谷 彩子 小田 龍哉 藤本 憲正 上村 静
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2019-04-01

西洋近代に由来する人権思想の世界的な普及にもかかわらず、当の西洋においても、あるいは日本などの他のさまざまな地域においても、差別(人種差別だけでなく、いじめや戦争、 テロまでを含む)が依然としてなくならないのは、なぜだろうか。本研究では、これまで「聖なるもの」と「俗なるもの」の二分法で説明されてきた「宗教」と「社会」とのありかたの理解を、日本宗教史と世界諸地域の比較宗教史との学問の蓄積からあらたに問いなおし、現代社会における公共性の問題と結びつけて検討する。そのことで、公共空間における差別と聖化の仕組みがあきらかになり、より具体的な公共性のあり方についての議論が可能になることが期待される。
著者
三浦 敦 寺戸 淳子
出版者
埼玉大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

昨年度に引き続き、海外共同研究者の協力を得て、次の調査を行った。・カンボジアに海外ボランティアに行った学生について、ボランティア期間中およびボランティア期間終了後のその学生のSNS利用(特にLINE)と、彼らがとってLINEに載せた写真、およびLINE上の文字や画像による会話について、データ収集を行った(三浦)。そのデータについては現在、解析中である。・介護ボランティア活動を行う北海道の施設において、その活動の状況について参与観察調査を行った(寺戸)。この研究では、まだ彼らのSNS利用についての調査までには至っていないが、基礎的なデータはほぼ集まりつつある。・介護実習を行う大学生に関して、その学生の介護実習への関わりとSNS(LINE、インスタグラム、フェイスブックなど)利用の状況について、参与観察及びインタビュー調査を行った(デュテイユ=緒方)。また、埼玉大学および早稲田大学において、運動部(ダンス部および柔道部)に所属する学生たち、およびスポーツ実習に参加する学生を対象に、スポーツ活動とSNS利用およびSNS上の写真投稿の関連性について、参与観察調査およびインタビュー調査を行った(デュテイユ=緒方)。あわせて、早稲田大学スポーツ科学部のスポーツ人類学研究室において意見交換を行った。以上の諸研究については、現在、データをまとめているところであり、理論的考察も含めて、次年度においてその成果を、国際会議および国際ジャーナル上において公表する予定である。
著者
寺戸 淳子
出版者
東京大学文学部宗教学研究室
雑誌
東京大学宗教学年報 (ISSN:2896400)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.13-26, 1997-03-31

聖母マリアの出現をきっかけに十九世紀に誕生したカトリックの聖地ルルドは,泉の水による奇蹟的治癒によって広くその名を知られ,多くの巡礼者を集めてきた。だがこの「病める者達の聖地」が歩んできた歴史を見てみると,それが「信仰治療」や「病治し」という言葉で一括される現象とは一線を画する一連の運動の総体であったことが明らかになってくる。ルルドを他の病治しの聖地と分かつものの一つが「医療局Bureau Medical」(旧「医学審査局Bureau des constatations medicales」)の存在である。ここでは教会権威による奇蹟的治癒の認定に先立ち,病が癒えたと申告してきた人物の旧-病状,治癒の経緯,快復の事実の有無を調査し,当該治癒が科学的に説明不可能であるかどうかを審議する。ルルドを訪れるあらゆる医師に門戸が開かれており,聖域に雇われた医師が医療局長として活動の全責任を負っている。この機関の存在は次のことを意味する。第一に,医師が聖域の委託をうけ聖域のためにその内部で活動しているということ,第二に,この機関が存在することで,ルルドを訪れる医師たちは個人的な立場ではなく医師という専門家の集団としてルルドに相対し,医学界として聖地と関わることになる。本稿ではルルドを特微づけるこの医師団の存在に注目し,聖地の歴史における医師の役割と位置づけを検討することで,ルルド巡礼における医師と傷病者の関わりを考察するものである。筆者はルルドにおける傷病者巡礼の歴史と聖地における傷病者の位置づけの分析を,聖域空間における傷病者の位置づけ,傷病者巡礼の成立史,という二つの切り口から行ってきたが,本稿はそれに続くものである。