- 著者
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浅見 克彦
- 出版者
- 和光大学表現学部
- 雑誌
- 表現学部紀要 = The bulletin of the Faculty of Representational Studies (ISSN:13463470)
- 巻号頁・発行日
- vol.18, pp.11-28, 2018-03-11
ポストヒューマニティとは、超越的な人工知性や人類の生物的な新種が喚起する問題群だけをさす概念ではない。思想史的に言えば、それは何よりも、ルネッサンス以来の人間性に深刻な懐疑が向けられ、人々が自身の新たな存在価値を模索していく情況をさすものだ。本稿はこの情況を整理すべく、おもに自律性の理念が掘り崩される事態に注目し、生命科学の新展開にともなう知のシステムの権力作用、神経科学の発展を背景とした意識の自存性の否定、さらにはサイボーグ技術を典型とするテクノロジーとの連続性の受容、などを検討する。そこから浮かび上がるポストヒューマンな実情は、意外にもすでに近代の初めから、あるいはそれ以前から伏在していた現実である。私たちは、ヒューマニズムの理念にしがみつき、そこから目を逸らしてきたのだ。ポストヒューマニズムとは、人間の実情を隠蔽し糊塗してきた、このイデオロギー的な枠組みを脱却する思考の営みにほかならない。