著者
伊藤 陽平
出版者
国文学研究資料館
雑誌
国文学研究資料館紀要 アーカイブズ研究篇 = The Bulletin of The National Institure of Japanese Literature, Archival Studies (ISSN:18802249)
巻号頁・発行日
vol.51, no.16, pp.39-55, 2020-03-16

本論の目的は、1950~60年代に展開した公文書管理改善運動の中で、行政の意思決定の中核を担っていた稟議制の性格が変容する過程を考察することである。公文書管理改善運動を推進していた人事院、行政管理庁は、末端の起案者から決裁権者の行政長官までが印判を押す稟議制による意思決定を非効率的だと認識していた。戦後初期まで、稟議制は実務に長けたベテランの下級官僚の属人的能力によって運用されており、彼らの影響力をいかに抑えるかが大きな課題となった。高度成長が本格化すると、行政需要の高まりとともに決裁文書も増大した。加えて、財政悪化を抑制するため、公務員数も抑制する必要が生じた。その結果、少ない人員で大量の文書を扱うことができる能率的な行政意思決定が必要となった。こうした状況を背景に、行政管理庁による公文書管理改善運動の最中、決裁権限の委譲と決裁規則の整備が各省庁で進行し、属人的に運用されていた稟議制はよりシステマティックな性格を帯びていった。公文書管理改善運動は、ベテラン下級官僚の力量に依存した属人的行政運営から、一定のマニュアルに基づくシステマティックな行政運営への転換を、文書行政の側面から促進するものであったと言えよう。

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