著者
遠藤 徹
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.183, pp.245-261, 2014-03-31

現代日本の音楽学は欧米の音楽学の輸入の系譜をひく研究が支配的であるため、今日注目する者は必ずしも多くはないが、西洋音楽が導入される以前の近世日本でも旺盛な楽律研究の営みがあった。儒学が官学化し浸透した近世には、儒学者を中心にして、儒教的な意味における「楽」の「律」を探求する学が盛んになり独自の展開を見せるようになっていたのである。それは今日一般に謂う音楽理論の研究と重なる部分もあるが、異なる問題意識の上に展開していたため大分色合いを異にしている。本稿は、近世日本で開花していた楽律研究の営みを掘り起こす手始めとして、京都の儒学者、中村惕斎(1629~1702)の楽律研究に注目し、惕斎が切り拓いた楽律学の要点と意義を試論として提示したものである。筆者の考える惕斎の楽律学の意義は次の六点に要約される。①『律呂新書』に基づき楽律の基準音、度量衡の本源としての「黄鐘」の概念を示した、②『律呂新書』を基本にすることで近世日本の楽律学を貫く、数理的な音律理解の基礎をつくった、③『律呂新書』の説く「候気」の説は受け入れず、楽律の基は人声とする考え方を提示した、④古の楽律を探求するにあたって、実証、実験を重んじた、⑤古の楽律の探求にあたって、日本の優位性を説いた、⑥古の楽の復興を希求した。

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