著者
森栗 茂一
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.277-304, 1993-03-25

従来,民俗学では,性の問題を取り扱うことは少なかった。また,男の視点からのみ,議論が展開することが多かった。ここでは,水俣病の発生の問題を,地域共同体の崩壊のなかでみようとし,とくに夜這いといわれる共同体的な性の交換制度の崩壊について,議論した。明治に入って,日本の近代化は,新興寡占地主を生み,土地の集中をもたらした。貨幣経済の浸透とともに,土地を持たない農民の間では,相互扶助関係は崩壊し,性の相互交換としての男と女の助け合い関係としての夜這いが衰退した。一方,工場を持たない天草などのより貧困な地域からは,女が売りに出され,近代都市の周辺に売春街が形成された。男の心は,新興地主も,伝統的な旧家も,そして工場労働者も,売春へと向かい,そこに放蕩を繰り返し,没落していった。それは,近代における人間の経済のエロチシズムであったのかもしれないが,その行き着く先は,水俣病という自己破滅であった。

言及状況

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30年前の論文だけど、近代に入るまで現金収入がほぼなかった南九州の外縁部で、社会の経済構造が変わると夜這いを成立させていた要素が大きな影響を受ける、というのがディテールを伴って書かれていてとても面白かった。 #今日の論文 『夜這いの解体・村の崩壊』 https://t.co/5slUjk8xNj
水俣の夜ばいと料理屋(実質、売春宿)の話。近代黎明期を中心に。 前近代村落を「自由」「平等」とする左翼の原始共産制的イデオロギー偏向はあるも、会社行きが侮蔑から尊敬へ変わってきた歴史的は興味深い。 堕胎罪は明治政府の富国強兵策も。 https://t.co/ctgPXLXS0L

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