著者
小島 美子
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.371-384, 1993-02-26

日本音楽の起源を論じる場合に,他分野では深い関係が指摘されているツングース系諸民族についてその音楽を検討してみなければならない。しかしこれまではモンゴルの音楽についての情報は比較的多かったが,ツングース系諸民族の音楽については,情報がきわめて乏しかった。そのため私は満族文化研究会の共同研究「満族文化の基礎的資料に関する緊急調査研究―とくに民俗学と歴史学の領域において―」(トヨタ財団の研究助成による)に加わり,1990年2月に満族の音楽について調査を行った。本稿はその調査の成果に基づく研究報告である。この調査では調査地が北京に限定されていたため,満族とエヴェンキ族の音楽について多少の情報を集めることができたに過ぎず,とりあえずこの2つの民族の音楽に,参考資料として一部モンゴルの音楽の情報を加えて報告する。まず満族の音楽については,主としてビデオ資料によってシャマンの音楽を調査した。ツングースの文化にとってはシャマニズムは,きわめて重要な位置を占める。シャマンが用いる1枚皮の太鼓,ベルトなどにつけている多くの鈴などは,他のツングース系諸民族のシャマンと共通しており,また日本の少数民族であるアイヌ・ギリヤーク・オロッコのシャマンとも共通である。そしてこれは日本古代の有力なシャマンや朝鮮韓国の現在につながるシャマンとは明らかに別系である。また満族シャマンの歌は,テトラコード支配の強い民謡音階によっており,日本と共通するところが多い。エヴェンキ族の民謡について,現段階ではもっとも信頼のおける民謡集で調べたところ,エヴェンキ民謡は,モンゴル民謡と同じく拍節的タイプと無拍のタイプに分かれるが,後者は15%程度で意外に少ない。前者も2拍子系の曲と3拍子系の曲,変拍子や途中で拍子の変わるものが,それぞれ大体25%程度を占めており,韓国朝鮮の民謡のリズムに近い。また音階は民謡音階と律音階と呂音階にほぼ3等分されるが,テトラコードの支配はそれほど強くなく,むしろモンゴル民謡の方が日本民謡に近い。またメロディの装飾的な動きは,エヴェンキ族の民謡の方が日本民謡に近い。

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