著者
小椋 純一
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.207, pp.43-77, 2018-02-28

森林や草原の景観はふつう1~2年で大きく変わることはないが,数十年の単位で見ると,樹木の成長や枯死,あるいは草原の放置による森林化などにより,しばしば大きく変化する。本稿では,高度経済成長期を画期とする植生景観変化とその背景について,中国山地西部の2つの地域の例について考えてみた。その具体的な地域として取り上げたのは,広島県北西部の北広島町の八幡高原と山口県のやや西部に位置する秋吉台である。その2つの地域について,文献類や写真,また古老への聞き取りなどをもとに考察した。その結果,八幡高原では,たとえば,今はスキー場などの一部を除き,草原はわずかしか見られないが,高度経済成長期の前までは,牛馬の放牧などのためなどに存在した草原が少なからず見られた。その草原の大部分は森林に変わり,また,高度経済成長期の前の森林には大きな木が少なかったが,燃料の変化などにより,森林の樹木は高木化した。なお,その地の草原は,高度経済成長期の直前の頃よりも少し遡る昭和初頭の頃,あるいは大正期頃まではさらに広く,その面積は森林を上回るほどであった。その変化の背景には,そこで飼育されていた馬の減少もあったが,別の背景として,大正の終り頃から製炭が盛んになり,山林の主な運用方法が旧来の牛馬の飼育や肥料用などのための柴草採取から,炭の原木確保のための立木育成へと変わったことがあった。一方,秋吉台には,今も草原が広く見られるが,それはそこが国定公園などに指定されている所で,草原の景観を守ることが観光地としての価値を維持するためにも重要であるためである。しかし,その秋吉台の草原も,高度経済成長期の前と比べると,草原面積は少し減少している。また,草原やその周辺の山林への人の関わり方の大きな変化により,植物種の変化など,その草原には大きな質的変化が見られ,また草原を取り巻く森林も高木化が進むなど大きく変化してきている。

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