- 著者
-
松田 睦彦
- 出版者
- 国立歴史民俗博物館
- 雑誌
- 国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
- 巻号頁・発行日
- vol.210, pp.171-185, 2018-03-30
小稿は,これまでおもに考古学的見地から進められてきた中世から近世にかけての花崗岩採掘技術や労働体制等の解明に,民俗学的手法によって寄与することを目指すものである。花崗岩採掘にかかわる知識や技術は,現在の職人にも保有されている。しかしながら,従来の研究は,それが十分に参照されないまま遺構や遺物の解釈が進められてきた傾向にある。そこで小稿では,現役の石材採掘職人から聞き取った花崗岩採掘の基本的な技術を提示するとともに,この石材採掘職人をともなって行なった小豆島の大坂城石垣石切丁場跡の調査で得られた職人の所感を紹介した。花崗岩採掘の基本的な技術については,①花崗岩の異方性,②キズの見きわめと対処,③石を割る位置,④矢の大きさと打ち込む間隔,⑤矢穴の形状,⑥矢穴の列と方向,の六点に整理して提示した。また,大坂城石垣石切丁場跡に対しては,割りたい石の大小等に関係なく,大きな矢穴が狭い間隔で掘られている点,矢穴底の短辺が長いことに合理性が見いだせない点,完成度の高い矢穴と低い矢穴が見られることから,熟練の職人と非熟練の労働者が混在していた点等が指摘された。現役の職人から得られたこれらの情報は,花崗岩採掘にともなう遺構や遺物の分析・解釈に資するものである。さらに,こうした試み自体が,民俗学と考古学との新たな協業関係を構築するものである。