- 著者
-
小池 淳一
- 出版者
- 国立歴史民俗博物館
- 雑誌
- 国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
- 巻号頁・発行日
- vol.225, pp.351-369, 2021-03-31
漆は日本列島上の生活文化において|きわめて重要な役割を果たしてきた。産業構造の変化によって|漆の位相は前近代とは大きく異なってしまっている。端的に漆の価値と社会的な重要性は大幅に低下したといってよい。その点で漆は過去のものになりつつある。しかし|だからといって民俗的な価値はなく|その追究は不要であるということはない。本稿では|かつての生活の諸場面における漆の様相を民俗学の立場から総合的にとらえていくための予備的な考察をおこなう。そのために|ここではまず|従来の民俗学における漆をめぐる調査|研究の成果をふり返り|そこでの問題意識と具体的な調査内容とを確認する。次に漆をめぐるさまざまな民俗事象が形成される背景となったであろう漆栽培とその樹液をめぐる近世の様相を|北奥羽地方(弘前藩)の史資料をもとに確認する。さらに漆をめぐって伝承されてきた俗信や説話をとりあげ|そこから見出される生活世界における漆の問題を考えてみたい。つまり本稿では|近世期以降の漆をめぐる史資料を概観し|漆の民俗研究を進めるための問題群を確認することを目標とし|課題の解決というよりも漆をめぐる民俗学的な課題の確認とこれからの考察の方向性とを提出することを試みるものである。結論として|漆をめぐる民俗的な研究課題としては|第1に木材としての漆の生態と利用|第2に地域のなかでの漆の生産と技術|第3に遠隔地をむすぶ漆の樹液の流通と人びとの移動|第4に近代化過程における漆の位相|第5に漆をめぐる俗信と説話およびその背景|といったものが挙げられるということが導き出せた。