- 著者
-
北舘 佳史
- 出版者
- 中央大学人文科学研究所
- 雑誌
- 人文研紀要 (ISSN:02873877)
- 巻号頁・発行日
- vol.92, pp.343-368, 2019-09-30
本稿では13世紀末にシトー会レ・シャトリエ修道院で作成された『サルの聖ジェロー伝』を分析の対象として共同体が創建者をどのように記憶し,その記憶がどのような機能を担ったのかを検討する。院長トマは聖ジェロー崇敬を振興する事業を行ったが,その一環として聖人伝は作成された。伝記では改革者・創建者としてのジェローと地域の治癒者・聖域の保護者としてのジェローという二つの像が描かれ,聖人の墓を守る共同体・巡礼を集める聖域として修道院は再定義された。また,ジェロー派の過去とシトー会修道院の現代をつなぎ,共同体の同一性を保証する役割が聖人の身体に与えられた。ロベール・ダルブリッセルやクレルヴォーのベルナールといった普遍的な人物も修道院の在地的な記憶に歪曲されて取り込まれた。このように修道院のアイデンティティの再編の契機となった聖ジェロー崇敬はシトー会修道院と地域社会の霊的関係という点で先駆的な試みと捉えられる。