著者
新田 孝行
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
vol.96, pp.109-133, 2020-09-30

ジャン・グレミヨンの『ある女の愛』(L’Amour d’une femme,1953年)は仏伊合作映画として製作された。物語の中盤で亡くなる老学校教師の埋葬の場面で,弔辞(oraison funébre) を読む司祭を演じるのはイタリア人俳優パオロ・ストッパだが,そのフランス語吹き替えは監督自身が行った。俳優経験のないグレミヨンだが,自作のドキュメンタリー映画では常に朗読を担当しており,その延長で劇映画の吹き替えも引き受けたと考えられる。弔辞の場面は本作において話の流れから逸脱したドキュメンタリー性を帯びており,グレミヨンの声によって読まれる弔辞は,フィクションの台詞であると同時に,教師役の女優ギャビー・モルレーが本作や過去作で演じてきたような女性たちに向けられた,彼の個人的メッセージとして受け取ることもできる。弔辞が依拠する頓呼法は,その場にいない人物に語りかけることでその人物があたかもそこにいるかのようなレトリック,すなわち活喩法を生じさせる。グレミヨンの映画的活喩法は死者となった人物の身代わりとして別の登場人物を差し出す。両者の間の人生の継承が彼の作品の秘められたテーマである。

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『人文研紀要』第96号(中央大学人文科学研究所)に書いたグレミヨンに関する論文が、中央大学のリポジトリから閲覧可能になりました。最後の劇映画『ある女の愛』における監督自身による声の吹き替えを様々な角度から論じています。お読みいただければ幸いです。 https://t.co/S5VUs0CT9r

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