著者
志賀 あゆみ 高篠 仁奈
出版者
東北大学農学部農業経営学研究室
雑誌
農業経済研究報告 (ISSN:02886855)
巻号頁・発行日
no.44, pp.58-67, 2013-02

バングラデシュにおける貧困問題は深刻であるが,貧困層の大部分は農村部に集中しており,農家の所得向上は喫緊の課題と言える。本研究の目的は,バングラデシュの農家所得向上の方策として,エビ養殖の可能性を探ることである。バングラデシュは最貧国であると同時に,災害が多発する地域でもある。ロイター通信〔10〕は,「エビ養殖で収入増=バングラデシュ洪水頻発地域の農家に光」と題して,サイクロンや洪水の災害に強いエビ養殖業が農家の収入を向上させていると報じている。しかし一方で,エビ養殖に使用する塩水の土壌浸水や,生態系への影響,健康リスク,持続性への不安市といった,環境問題の側面からの批判も多い。このようなエビ養殖について,先行研究では,経済面での影響について食料摂取,農家の収入増加や女性の雇用増加,費用一便益構造といった観点からエビ養殖を評価した研究が行われている(松田他〔6〕,Ito〔5〕,Abedin and Kabir〔1〕)。また,エビ養殖が急激に普及することによる社会面での影響について,Kendricは地主一小作の契約関係の変化を指摘している。さらに,生態系への影響についても多くの研究が行われている(Apurba〔2〕など)。しかしながら,このような影響が農村でどのように認識されているのかといった視点からの実態調査はあまり行われていない。そこで本稿では,バングラデシュのエビ養殖の可能性について,エビ養殖が農村に与えた社会的・経済的影響について,特に貧困層への影響と社会面・環境面での影響に着目した実態調査の結果を報告する。
著者
木谷 忍
出版者
東北大学農学部農業経営学研究室
雑誌
農業経済研究報告 (ISSN:02886855)
巻号頁・発行日
no.40, pp.65-74, 2009-02

近年の地球環境への意識の高まりが、地域づくりといったところにも強く表れるようになった。循環型地域づくり、低炭素型社会づくりなど、文理融合を謳い文句とする様々な取り組みに政府も支援を惜しまない。さらに、地域の生活者の視点からの地域づくりも強調される。筆者もこういった動向を否定するわけでは毛頭ない。ただ、いたるところで生活者を重視するという繰り返し発言には、どうしてももどかしさを感じてしまう。それは、最近注目されている概念、「複雑系」における内部観測の理論にも通じていて、観察者として外部から地域の生活者を観た記録(エビデンス)の利用と、地域づくりにいだく私たち研究者の目的思考的価値観にそれは起因しているようだ。外部観察を通して研究者が共通に抱く生活者は依然として他者であり、他者としての生活者を基点に地域づくりを考えていこうというのは、科学的な説得力はあっても、地域の生活が見えてこない。生活者第一、生活者の目線で、といった多くの政治家の発言にみるように、地域社会で生活する人々を外部からみてその理想像を打ちたて、そこからの乖離の度合いによって社会を評価しようとする。生活者重視という言葉には、私たち研究者も避けることの難しい大きな誤謬が含まれている思いがする。文理融合の「文」は、外部観測に根を張る社会科学のことに留まっているのであろう。本稿では、地域づくりの議論での役割体験に注目し、内部観測の理論をベースに地域づくりの自由性についての評価の枠組みを構築する。すなわち、市民は当該地域づくりに関係のない役割演技者の議論を観察しながら、このシミュレーションに参加し役割演技することで、自らの地域づくり観を創発できるかどうか、そういった点を評価しようとする枠組みを提案するものである。