著者
久米 新一 高橋 潤一 岡本 明治 de Rojas S.A.S. de Oka R.B.B. Garay G.M. Denis F.S.C. Leonardi S.I.R.
出版者
農林省九州農業試験場
雑誌
九州農業試験場報告 (ISSN:03760685)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.p161-176, 1988-03

本研究は,亜熱帯地域に属する南米のパラグアイ国における,放牧牛の生産性と繁殖成績を改善するために,放牧牛のミネラル栄養に及ぼす種々の環境要因の影響を明らかにしたものである。得られた成果は,以下のとおりである。1. 東部のブエナビスタ牧場及びバレリート牧場の自然草地の草のP,Na,Zn及びCu濃度が非常に低かったので,草からのそれらの摂取量は放牧牛に対しては不足していることが推察された。また,草のFe及びMn含量の過剰によるミネラル不均衡もあると思われた。2. ブエナビスタ牧場及びバレリート牧場の自然草地の草のP,Na,Zn及びCu濃度に季節変化がみられなかったので,放牧牛は年間を通してそれらの不足していることが推察された。3. 東部の自然草地における草のP,Na,K,Zn及びCu濃度が低い値を示したことは,主に土壌中のそれらの含量が低いことによると考えられた。しかし,草のFe及びMn濃度の過剰は,土壌中のそれらの含量よりも,むしろ他の要因によると思われた。4. 一牧場,あるいは小地域での土壌分析から,牛のミネラル栄養の状態を診断することは困難であるが,草の分析は重要と考えられた。人工草地の草は,自然草地の草と比較するとミネラルを多量に含有し,また,東部の自然草地内では,樹木のある草地の草が樹木のない草地の草よりもミネラルに富んでいることが示唆された。5. チャコ地方の草のミネラル含量とミネラルバランスは放牧牛に対してほぼ適切なものであったが,Cuはやや不足していた。6. 水は少量のミネラルを含有していた。放牧牛は草から大部分のミネラルを摂取していたが,Zn及びCuの摂取では土壌も一部分は重要な役割を果たしていた。濃厚飼料及び他の飼料のミネラル濃度は非常に異なっていた。7. 東部のコルデルリータ牧場の自然草地の草では,P,Na,Zn及びCuが不足し,またFe及びMnが過剰であった。血清分析から判断すると,牛はややCu欠乏の状態にあると思われた。8. 牛の血清のCa,P及びMg濃度はほぼ適正な値を示したが,Cu濃度は低い値であった。パラグアイにおいては,放牧牛はややミネラル欠之の状態にあり,放牧牛のP及びCu欠之が重要な問題であることが示唆された。
著者
大山 一夫 佐藤 博保
出版者
農林省九州農業試験場
雑誌
九州農業試験場報告 (ISSN:03760685)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.p333-351, 1981-03
被引用文献数
1

暖地型牧草の越冬性について,熊本県西合志町において,1974年より1979年にかけて試験した。なお,試験期間中の気温は,年間で最も低い1月の月平均最低気温が-2.0℃であり,6年間を通じての最低気温は-10.3℃であった。結果は次の通りである。1. 暖地型牧草の種,品種(系統)によって,越冬性が顕著に異なることが認められた。1)ブルーステム,ウィーピングクロリス,バーミューダグラス,ラブグラス類,ブルーパニック,スィッチグラス,ダリスグラス,バヒアグラス,ベチベルなどは殆んど全個体が越冬した。2)ウーリーフィンガーグラス,カラードギニアグラスの一部系統,ベージイグラスなども暖冬年にはよく越冬したが,寒冬年には越冬歩合が低下した。3)マカリカリグラス,コロンブスグラスなどもある程度越冬した。4)セタリア,スプレンディダおよびマメ科牧草のシルバーリーフデスモディウムなどは少ししか越冬しなかった。5)シグナルグラス,ローズグラス,ギニアグラス,グリーンパニックなどのイネ科牧草及び大部分のマメ科牧草は越冬しなかった。2. 越冬性と耐霜性の間には密接な関連が認められたが,一部に例外(ブルーパニックやジョンソングラスなど)もあった。3. 耐霜性ならびに越冬性と植物体本来の大きさとの間には,一定の関連がみられなかった。4. 越冬性は種のみでなく,品種・系統によっても異なり,ローズグラスでは,越冬歩合と日長反応の間に密接な関係が認められた。5. 冬期間,ビニール被覆を行うことにより,越冬歩合をある程度向上させることが可能であった。6. 越冬した牧草の早春における生育を比較すると,種(品種・系統)間で顕著な差異が認められた。