著者
服部 寿史 堀田 勝平 小山 修司 前越 久
出版者
公益社団法人日本放射線技術学会
雑誌
放射線防護分科会会誌 (ISSN:13453246)
巻号頁・発行日
no.14, 2002-04-04

[目的]当院に2001年3月に導入されたフラットパネルディテクタ搭載乳房撮影装置(GE社製セノグラフ2000D)に撮影条件等と共に表示される平均乳腺線量値(Average glandular Dose)以下AGDと入射皮膚線量値(Entrance skin exposure)以下ESEの表示機能について実測値との比較を行ったので報告する。[方法]1.AGDを求めるために乳房撮影精度管理マニュアルに基づいてA1減弱法にて管電圧26〜34kV、陽極/フィルター材質Mo/Mo,Mo/Rh,Rh/Rhについて半価層を測定した。Fig.1 2.乳腺脂肪比率の異なる(30/70%.50/50%.70/30%)BR12乳房等価ファントム(モデル12A)を用いて厚さ2〜7cmについて各陽極/フィルター材質ごとにAGD、ESEを求め装置の表示値と比較した。[figure][figure][figure][figure] 今回,Fig.2のAGDを求めるにあたり1R当たりの吸収線量換算値についてはsobol,Wu(1997)等が求めた近似式より求め乳房厚と乳腺含有率に対応したデータに換算したものを用いた。また,大気補正係数については測定時気温25℃,気圧999hpaから1,0243とした。Fig.3のESEの後方散乱係数については19×24cmの照射野からBJRのSupplement No17の長方形照射野と等価な円形照射野の直径を求めるグラフより換算し1.16とし、吸収線量換算係数については光子減弱係数データブックより算出した実効エネルギーと吸収線量換算係数のグラフより乳腺組織に対応した値として0.82とした。[結果]Fig.4は28kV50mAsで乳腺脂肪比率50/50%のファントムを用い2〜7cmまで厚みを変化させ,陽極/フィルター材質Mo/MoでAGDとESEの表示値と実測値を表したグラフです。横軸にファントム厚を縦軸に線量を棒グラフ左側にAGD表示値と実測値を,右側にESE表示値と実測値を表したものです。各厚みに関してはAGD,ESE共にほぼ同じ比率で表示値より実測値が少ないものとなった。これは、乳腺脂肪比率30/70%.70/30%の結果においても同様の結果となった。組織別ではAGD,ESE共に表示値と実測値の差はほぼ一定であったが,線質別でRh/Rhがやや差の少ない結果なり平均するとAGDで15〜19%,ESEで9〜16%表示値より実測値が少ない結果なった。ここに28kV50mAs Mo/Mo4cmでの各組識別の実際のESEとAGDを示す。Table1[table] ここでESE表示値は組織(乳腺/脂肪比率)を変化させても全く同じ値を示した。これは他の線質間においても各厚みについても同じ結果となった。さらには乳腺組織とは全く違う物質、例えば発砲スチロール,鉛などの物質においても同等の大きさで条件,圧迫厚が同じであれば同様の結果となった。[考察]ESEについて、今回我々は照射線量から吸収線量に換算するさい吸収体の特定物質として乳腺を用いた換算係数で算出したが、装置の設定は算出方法が明確でないがESEは吸収物質が何であれよほど大きさが違わない限り撮影条件と圧迫厚で決定され、同じ表示値を示す事からも吸収物質が空気を対象とした計算方式ではないかと考えられる。また測定方法の違いや半価層の設定値の違いでAGDへの変換係数も変化するためある程度は誤差範囲と考えられた。[結語]今回、このようにAGD,ESE共に表示値と実測値は比例関係を示しており線質間での差が若干認められるものの線量を把握するには充分な機能であると考えられた。また、実測値のデータにおいて入射皮膚面吸収線量が平均乳腺線量の3.6〜5.6倍の値を示したことからも平均乳腺線量は全乳腺吸収線量の平均値で、より皮膚面に近い乳腺吸収線量は平均乳腺線量より多いことを理解すべきである。以上のことからも、この装置における線量の表示機能は被曝管理という観点からも有用な機能であると考えられ被爆低減に努力していきたい。