著者
島田 義也 西村 まゆみ 柿沼 志津子
出版者
独立行政法人放射線医学総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

胎児・小児期における放射線被ばくの影響評価とその防護対策は、緊急の課題である。そこで本研究では、マウスを用いて寿命短縮に対する被ばく時年齢の影響や、被ばく後の変異蓄積および発生したがんにおける遺伝子変異頻度の違いを解析した。その結果、新生児は最も感受性が高く胎児後期は低いこと、被ばく時年齢時によって遺伝子の変異頻度が変化する可能性が示され、今後の解析の手がかりが得られた。
著者
武田 志乃 西村 まゆみ 山田 裕 上野 俊治 島田 義也
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第34回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.5156, 2007 (Released:2007-06-23)

近年、劣化ウラン弾汚染地域やウラン鉱山伏流水を飲用する地域で健康影響についての報告が増加し、子どもへのウランの毒性影響に関心がもたれている。自然界に存在するウラン(天然型ウラン)や劣化ウランは放射線毒性よりも重金属としての化学毒性が優勢とされ、カドミウムや水銀様の腎臓の尿細管障害を引き起こすことが知られている。しかし発達期におけるウランの感受性や体内挙動は十分に理解されていない。その理由の一つは、組織中の微量ウランの測定が困難であったことがあげられる。すなわち、ウランはα線放出核種であるため、β線やγ線核種のように感光フィルムやイメージングプレートによる組織分布が簡便に得られない。 我々はこれまでに、ナノビームを利用した高エネルギー領域シンクロトロン放射光蛍光X線分析(SR-XEF)や誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)による微量元素測定手法に取り組んできた。両手法は微小組織におけるウラン分析に有効であることから、我々はこれらの手法を幼若ラットにおけるウランの挙動解析に応用することを試みた。本研究では、ウランをばく露した生後6日齢および3週齢の雄性ラットにおけるウランの体内挙動、および腎臓中ウラン分布とアポトーシス誘導との関係を報告する。
著者
瀧山 和志 武田 志乃 内川 拓也 小久保 年章 島田 義也
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第40回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.1002024, 2013 (Released:2013-08-14)

【はじめに】原子力発電で利用されるウランは腎毒性物質として知られている。ウランは地殻成分として環境中に広く分布し、原発事故で飛散した多くの放射性核種と同様に、その内部被ばく影響に関心が高まっている。劣化ウラン弾汚染や鉱山乱開発による環境負荷の懸念、あるいは地下水汚染地域での健康調査報告などを背景に、放射線防護の観点から早急な対応が求められている。緑藻の一種であるクロレラは、鉛、カドミウム、メチル水銀といった有害金属の吸着作用あるいは排泄促進作用が報告されている。そこで、本研究ではクロレラのウラン腎臓蓄積低減効果を調べることを目的とし、ウラン吸収および排泄へのクロレラの効果について検討を行った。【実験】動物の処置:Wistar系雄性ラット(10週齢)に胃ゾンデにより酢酸ウラン(天然型)を単独(0.5 mg/kg)あるいはクロレラ(1 g/kg)を併用一回投与した。個別に代謝ケージに移し3日間飼育し、摂食、摂水、尿、および糞量を測定した。ウランの分析:腎臓、血液、尿、糞は高純度硝酸を加えて湿式灰化し、ウラン濃度を誘導結合プラズマ質量分析により測定した。【結果および考察】観察期間中、クロレラ併用群の腎臓中ウラン濃度はウラン単独群に比べ50-60%低値となった。投与後初期の血漿へのウラン移行がクロレラ併用群で減少しており、腸管でのウラン取り込みが低下していたものと考えられた。糞・尿代謝への影響についても併せて報告する。
著者
高畠 貴志 柿沼 志津子 廣内 篤久 中村 正子 藤川 勝義 西村 まゆみ 小木曽 洋一 島田 義也 田中 公夫
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第50回大会
巻号頁・発行日
pp.153, 2007 (Released:2007-10-20)

放射線誘発胸腺リンパ腫は、放射線発がんメカニズムの解析だけでなく、発がん感受性に影響する遺伝的要因についての研究にも有用なモデル実験系である。我々は、放射線誘発胸腺リンパ腫を誘発しやすいC57BL/6系統、誘発しにくいC3H系統、およびこれらを親とし比較的誘発しやすいC3B6F1系統とB6C3F1系統で放射線誘発した胸腺リンパ腫を対象として、DNAコピー数の異常をゲノム網羅的にアレイCGH法で解析した。胸腺リンパ腫発症に関与することが知られているIkarosやBcl11bなどの遺伝子座での変異や15番染色体のトリソミー以外に、5番染色体、10番染色体、16番染色体での異常が系統依存的に高頻度であること、および、14番染色体のトリソミーが系統によらず高頻度であることを見出した。さらに、T細胞受容体ベーター遺伝子領域の2つの対立遺伝子で共に遺伝子再構成が生じている頻度は、C3H系統でのリンパ腫より、C57BL/6系統でのリンパ腫で高頻度に検出された。このことから、C57BL/6系統では異常なV(D)J組換えを起こしやすいためにリンパ腫を誘発しやすい、という可能性が示唆された。また、C3B6F1系統やB6C3F1系統でのリンパ腫における、これら各種異常の頻度や染色体上での異常頻発領域の分布は、C57BL/6系統で誘発されたリンパ腫についての結果と似ていた。さらに、F1系統での腫瘍についてのヘテロ接合性消失の解析と合わせると、IkarosやBcl11b遺伝子座でのヘテロ接合性消失は主として欠失型異常により生じ、他方Cdkn2やPten遺伝子座では主として片親性ダイソミーにより生じると示唆された。これらの結果は、放射線によりリンパ腫が誘発される際に変異が蓄積される機構や、放射線により胸腺リンパ腫を誘発しやすい系統と誘発し難い系統が存在することの原因を知る上で重要な知見となる。本研究は青森県からの受託事業により得られた成果の一部である。
著者
甘崎 佳子 柿沼 志津子 古渡 礼恵 山内 一己 西村 まゆみ 今岡 達彦 有吉 健太郎 渡邊 正己 島田 義也
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第50回大会
巻号頁・発行日
pp.167, 2007 (Released:2007-10-20)

【目的】放射線照射によって生じる長寿命ラジカルは、培養細胞の系において遅延型の点突然変異を誘発し細胞をがん化させるが、放射線照射後にビタミンC(VC)を添加すると突然変異頻度が低下し、がん化が抑制されることが報告されている。しかし、放射線発がんにおける長寿命ラジカルの関与について、動物を用いて検証した報告は少ない。そこで本研究では、マウスの放射線誘発胸腺リンパ腫(TL)の系を用いて、放射線照射後にVCを投与した場合のTL発生率とがん関連遺伝子の変異パターンを解析し、放射線誘発TL発生における長寿命ラジカルの関与について明らかにすることを目的とした。 【材料と方法】4週齢B6C3F1マウス(雌)に、X線1.4 Gyを1週間間隔で4回照射しTLを誘発した。VCは生体内半減期の長い誘導体Sodium-L-ascorbyl-2 phosphate(共立薬科大学小林静子先生より供与)を100mg/kg腹空投与した。実験群は、1) X線単独(X線)、2) X線照射直後に毎回VC投与(X+VC)、3) X線照射直後に毎回VCを投与しさらに継続して毎週1回(3ヶ月間)VC投与(X+VC継続)の3群を設定し、各群における照射後生存日数とTLの発生率を調べた。また、放射線誘発TLにおいて変異パターンが明らかとなっているがん抑制遺伝子Ikarosの遺伝子発現、点突然変異およびタンパクの発現を解析した。 【結果】照射後の生存日数は、X線群と比較してX+ VC群ではやや短くなる傾向を示したが、X+VC継続群では長くなった。また生後400日におけるTLの発生率もX+VC継続群で若干低下した。さらに、Ikarosの変異解析の結果、X+VC継続群ではIkaros遺伝子の点突然変異が認められなかった。以上の結果から、マウスの放射線誘発TL発生に長寿命ラジカルが関与している可能性があることが示唆された。
著者
甘崎 佳子 平野 しのぶ 中田 章史 高畠 貴志 山内 一己 西村 まゆみ 吉田 光明 島田 義也 柿沼 志津子
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.274, 2010

【目的】CTやPETなど放射線技術の進歩は子どもの医療に大きく貢献してきた。その一方で、子どもは放射線の感受性が高く被ばく後の人生も長いなど、将来の発がんリスクが心配されている。しかし、胎児・子ども期における放射線被ばくと発がんリスクに関する詳細な情報は少ない。本研究では、子ども期被ばくによる発がんメカニズムの特徴を明らかにするため、異なる年齢でX線照射して誘発したマウス胸腺リンパ腫において、がん抑制遺伝子<i>Ikaros</i>の変異解析を中心に発がんメカニズムの相違を解析した。<br>【材料と方法】1週齢、4週齢、8週齢のB6C3F1雌マウス(各群50匹)に、X線(0.4, 0.8, 1.0, 1.2Gy)を1週間間隔で4回照射して胸腺リンパ腫を誘発した。さらに、得られた胸腺リンパ腫について染色体異常解析、がん関連遺伝子の変異解析を行った。<br>【結果】(1) 胸腺リンパ腫の発生率は1週齢照射群で高頻度に増加すると予想したが、1.2Gy4回照射で 1週齢は28%、4週齢は36%、8週齢は24%で有意差は認められなかった。(2)染色体異常は、1週齢照射群では12番染色体の介在欠失と不均衡型転座による欠失型異常(<i>Bcl11b</i>領域を含む)が、一方4週齢照射群では11番染色体の介在欠失と12番染色体の不均衡型による欠失型異常がそれぞれ認められた。また、15番染色体のトリソミーは両群に観察された。 (3) 1週齢照射群における11番染色体のLOH頻度(25%)は、4週齢(43%)・8週齢(36%)と比べて低く、逆に19番染色体では高かった(1週齢52%、4週齢17%、8週齢11%)。また、11番染色体にマップされている<i>Ikaros</i>の変異頻度は、1週齢照射群(25%)では4週齢(33%)・8週齢照射群(57%)と比較して低かった。<br>【考察】1週齢照射群では11番染色体の染色体異常やLOH、<i>Ikaros</i>変異は少なく、逆に19番染色体のLOHは高頻度に観察され、4週齢・8週齢照射群とは異なる特徴を示した。すなわち、被ばく時年齢によって胸腺リンパ腫の発がんメカニズムが異なる可能性が示唆された。
著者
武田 志乃 小久保 年章 小西 輝昭 酢屋 徳啓 及川 将一 鈴木 享子 寺田 靖子 早尾 辰雄 井上 達也 西村 まゆみ 島田 義也
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第39回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-150, 2012 (Released:2012-11-24)

【はじめに】原子力発電で利用されるウランは腎毒性物質として知られている。原発事故をはじめ、劣化ウラン弾汚染や原子力資源獲得競争による環境負荷の懸念などを背景に、ウランの毒性影響に関心がもたれ、放射線防護の観点から早急な対応が求められている。これまで我々は、標的臓器である腎臓のウランの挙動を調べ、ウランが近位直尿細管に選択的に蓄積し、組織損傷を引き起こしていることを示してきた。本研究では、微小ビームを用いたウラン局在量解析により、毒性発現および尿細管再生期における尿細管におけるウラン局在を調べた。【実験】動物の処置:Wistar系雄性ラット(10週齢)に酢酸ウラン(天然型)を背部皮下に一回投与(0.5 mg/kg)した。ウランの分析:腎臓中ウラン濃度は誘導結合プラズマ質量分析により測定した。腎臓内ウラン分布および局所量の解析は高エネルギー領域シンクロトロン放射光蛍光X線分析(SR-XRF)により調べた。下流部位近位尿細管の検出:SR-XRF測定試料の隣接切片について下流部位近位尿細管に特異的に存在するグルタミンシンターゼの免疫染色を行った。組織影響観察: TUNELおよびPAS染色した。【結果および考察】投与1日目ウランは下流部位近位尿細管に分布した。管腔側の刷子縁へのウラン沈着は認められず、尿細管上皮には腎臓平均ウラン濃度の50倍程度のウラン濃集部位が検出された。投与8日目では下流部位近位尿細管上皮の脱落が観察されたが、15日目になるとダメージ部位には再生尿細管が出現した。15日目の腎臓平均ウラン濃度は1日目の12%に減衰した。尿細管上皮のウラン濃集部位は減少したが、数ミクロン四方程度の微小領域に1日目と同等のウラン局所量の部位も検出された。このようなウラン濃集がばく露後どの程度持続するのか、今後明らかにする必要があると考えられた。
著者
古渡 礼恵 柿沼 志津子 甘崎 佳子 平野 しのぶ 山内 一己 西村 まゆみ 今岡 達彦 島田 義也
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.186, 2008

【目的】放射線と化学発がん物質が複合曝露された時に発生するがんにおいて、がん関連遺伝子の変異の蓄積がどのように変化するかについての情報は未だ少ない。そこで、放射線とエチルニトロソウレア(ENU)の複合曝露により胸腺リンパ腫(TL)を誘発し、その<i>Kras</i>の点突然変異の頻度とスペクトラムが単独曝露とどのように異なるか、また、その変化が<i>Ikaros</i>の点突然変異とどのように異なるか比較した。<br>【材料と方法】B6C3F1マウスにX線0.8~1.0Gyを1週間間隔で4週間全身照射、もしくは、ENUを飲料水として100~200ppmを4週間投与した。処理は1)4週齢または8週齢からX線照射、2)4週齢または8週齢からENU投与、3)4週齢からX線照射した後8週齢からENU投与(X to ENU)、4)4週齢からENU投与した後8週齢からX線照射(ENU to X)、5)4週齢からX線照射とENU投与を同時曝露(X+ENU)の条件で行った。<i>Kras</i>ならびに<i>Ikaros</i>の変異は、cDNAのダイレクトシークエンスにより調べた。<br>【結果】TLの発生頻度はX線単独またはENU単独での発生頻度と比較して、(X to ENU)群でも(X+ENU)群でも相乗的に、(ENU to X)群では亜相加的に増加した。<i>Kras</i>の点突然変異はX線単独でもENU単独でも、4週齢から処理したものに比べ、8週齢から処理したもので減少していた。<i>Ikaros</i>では週齢による点突然変異の現れる割合に変化はほとんどなかった。次に(X to ENU)群では、<i>Kras</i>と<i>Ikaros</i>のそれぞれで、点突然変異が(超)相加的に増加した。しかし、(ENU to X)群では、<i>Kras</i>の点突然変異は相加的な増加が見られたが、<i>Ikaros</i>では見られなかった。また、(X+ENU)群では、(X to ENU)群と比較して、<i>Kras</i>の点突然変異は著しく減少したのに対し、<i>Ikaros</i>は増加することがわかった。<br>これらの結果から、発がんの複合曝露効果は、曝露の順番などの曝露様式に依存し、それは、がん関連遺伝子の点突然変異の誘発頻度によって一部説明できると考えられた。
著者
柿沼 志津子 尚 奕 森岡 孝満 臺野 和広 島田 義也 西村 まゆみ 甘崎 佳子 今岡 達彦 ブライス ベンジャミン
出版者
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

福島原発事故以降、放射線への関心が高まり発がんが懸念されている。一方、小児がん患者のプロトンや重粒子線治療が始まり、中性子線や炭素線による2次発がんも心配される。こども被ばくのリスクとその低減化のため発がん機構の解明が急務である。本研究では、マウスやラットの発がん実験で得られたがんの病理解析やゲノム変異解析で、被ばく時年齢、線質、臓器依存性を示す発がんメカニズを調べた。その結果、血液がんでは子供期被ばく特異的な原因遺伝子と変異メカニズムが認められた。固形がんでは、高LET放射線で発がんの早期化や悪性化が示されたが、ゲノム変異に差はなかった。今後、エピジェネティック異常について検討が必要である。
著者
西村 まゆみ 島田 義也 今岡 達彦 柿沼 志津子 臺野 和広
出版者
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

原爆被爆者や放射線治療患者の疫学調査は、乳腺は放射線による発がんリスクが高い臓器であることを示している。国際宇宙ステーションでは生物学的効果比が高い中性子線の被ばく線量が高く、女性宇宙飛行士の放射線防護には中性子線の影響を考慮する必要がある。また、乳がんリスクは出産経験に大きく左右されるが、放射線による乳がんリスクの情報は少ない。本研究では、ラットを用いてγ線や中性子線による乳がんリスクが妊娠経験によって低減するかを検討した。その結果、出産経験は乳がんの自然発生率を変えなかったが、γ線(4Gy)および中性子線(0.05-0.5Gy)で誘発される乳がんを、ほぼ完璧に抑制することが明らかとなった。
著者
小野 哲也 法村 俊之 島田 義也 上原 芳彦 上原 芳彦
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

実験動物ではカロリー制限が放射線による発癌効果を抑制することが分かっているが、そのメカニズムは未解明である。そこで本研究では突然変異、染色体異常、遺伝子発現変化などを指標として解析を行った。その結果、突然変異と染色体異常についてはカロリー制限による影響を見出すことはできなかったが、いくつかの遺伝子の発現の変化からは可能性のあるものがみつかり、今後の解析の手がかりが得られた。