著者
加川 充浩
出版者
島根大学法文学部社会文化学科福祉社会教室
雑誌
島根大学社会福祉論集 = Journal of social welfare studies, Shimane University (ISSN:18819419)
巻号頁・発行日
no.6, pp.1-15, 2017-03

本研究の目的は、占領下における福祉行政確立と民生委員制度改革の両者をめぐる動向を描きつつ、公私分離の内実を明らかにすることである。占領軍は、社会福祉行政の基盤を構築する一方で、民生委員を福祉行政から排除することを求めた。いわゆる公私分離の原則である。この公私分離の原則に、日本政府がどのように対応したのかについて検討した。史料として、地方自治体(兵庫県および京都府)が所蔵しているものを利用した。結論として、3点について述べた。第一は、日本側は福祉行政制度を確立しつつも、民生委員の活用を図るという「曖昧さ」を残した対応をしたことである。第二は、「曖昧さ」が存置する時代状況があったことである。第三は、戦後の福祉行政出発点における専門職配置の不徹底さは、現在にも影響を及ぼしているということである。
著者
中川 政樹
出版者
島根大学
雑誌
島根大学社会福祉論集 (ISSN:18819419)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.57-69, 2008-03

イタリア理想主義の代表的思想家として広くその名を知られているベネデット・クローチェ(Benedetto Croce, 1866-1952)とジョヴァンニ・ジェンティーレ(Giovanni Gentile, 1975-1943)は、相互協力によって新しい観念論哲学の体系を構築して当時の思想的諸潮流に論戦を挑み、イタリア思想史上他に例をみない影響力を獲得したのであった。しかし、両者がそれぞれの思想体系を確立していく過程で、さまざまな理論的相違が顕現することになった。そして、相対立する二つの理想主義理論が展開されることになったのである。しかし、両者の友愛と知的協力関係は、理論的対立の深化にもかかわらず、ファシズム台頭期まで続いた。そこには何があったのか。本稿は両者の連帯が辿った1910 年代の複雑な過程の詳細を明らかにし、その理論的意味を考察する。
著者
京 俊輔
出版者
島根大学
雑誌
島根大学社会福祉論集 (ISSN:18819419)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-19, 2015-03-31

島根県は社会福祉法人南高愛隣会(長崎県)の研究事業の一環として、起訴された高齢者や障害者に対し、福祉的視点からかれらの更生支援を検討する、いわゆる入口支援に取り組み始めている。島根県では2013年10月に社会福祉法人島根県社会福祉協議会内に障がい者調査支援委員会が立ち上げられて以降、これまでに4事案において入口支援を実施してきた。13;本研究は、そのうちこの研究事業全体として初の試みとなった、在宅起訴(控訴)時点で入口支援を実施したB氏の事案を取り上げた。本研究では、この事案のなかで取り組まれた入口支援について、ソーシャルワークの事例として整理を試みた。また、勾留中と在宅起訴(控訴)時点の入口支援の比較を通じて、在宅起訴(控訴)における入口支援の可能性を検証した。その結果、入口支援の実施期間は勾留中とほぼ同じ約2ヶ月であったものの、在宅起訴(控訴)の場合は時間的制約、物理的制約が少なく、本人の障害特性等によって面会回数等を柔軟に調整することができていたことが分かった。その一方で、判決後により福祉サービスとつながった場合に誰が再犯防止の責任を担うのか、弁護人との連携をどのように構築していくか等が課題として見えてきた。
著者
福田 景道
出版者
島根大学
雑誌
島根大学社会福祉論集 (ISSN:18819419)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.47-56, 2008-03

『堤中納言物語』「虫めづる姫君」の主人公の姫君の異常性は、虫類の異様愛玩と外見の異装異貌の2点に集約できるが、その異常を学識と論理を駆使して正当化する手法がまた異常であり、不完全・不合理である。この異常性は、『今鏡』で評価されている「異能性」に近似する。「虫めづる姫君」と『今鏡』には「本」と「末」とを同等に尊重する基本思想が顕示されていて、両作品には共通性がある。虫めづる姫君は「本」(烏毛虫=幼虫)のみを重視するので、基本思想に反していることになり、ここでも彼女の論理は破綻している。ところが、作品内に名前のみが紹介される蝶めづる姫君を「末」(蝶=成虫)のみを重視する存在と認めてみると、虫めづる姫君と蝶めづる姫君とが相補って本末をともに尊重して基本思想を具現する構図が確認できるのである。すなわち、「虫めづる姫君」という作品名は、烏毛虫めづる姫君と蝶めづる姫君の二人の姫君を表すと推断できる。姫君の異能性は、もう一人の姫君に半面を委ねることによって成り立つとも言える。