著者
福田 景道
出版者
島根大学
雑誌
島根大学社会福祉論集 (ISSN:18819419)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.47-56, 2008-03

『堤中納言物語』「虫めづる姫君」の主人公の姫君の異常性は、虫類の異様愛玩と外見の異装異貌の2点に集約できるが、その異常を学識と論理を駆使して正当化する手法がまた異常であり、不完全・不合理である。この異常性は、『今鏡』で評価されている「異能性」に近似する。「虫めづる姫君」と『今鏡』には「本」と「末」とを同等に尊重する基本思想が顕示されていて、両作品には共通性がある。虫めづる姫君は「本」(烏毛虫=幼虫)のみを重視するので、基本思想に反していることになり、ここでも彼女の論理は破綻している。ところが、作品内に名前のみが紹介される蝶めづる姫君を「末」(蝶=成虫)のみを重視する存在と認めてみると、虫めづる姫君と蝶めづる姫君とが相補って本末をともに尊重して基本思想を具現する構図が確認できるのである。すなわち、「虫めづる姫君」という作品名は、烏毛虫めづる姫君と蝶めづる姫君の二人の姫君を表すと推断できる。姫君の異能性は、もう一人の姫君に半面を委ねることによって成り立つとも言える。
著者
福田 景道
出版者
島根大学教育学部
雑誌
島根大学教育学部紀要 (ISSN:18808581)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.114-126, 2015-12-22

東宮保明親王早世の悲劇は、皇統の行く末を揺るがし、『後撰集』や『大和物語』の素材となって流布し、夭折した東宮を意味する「先坊(前坊)」は保明の別称として定着していった。その流れを承けて『源氏物語』の六条御息所の物語や『大鏡』の先坊と大后の物語が形成されたのである。『源氏』『大鏡』両作の影響は後世に広く及び、先坊像を発展させ、『今鏡』の先坊を生み出し、中世新時代に至るまで途絶することはなかった。十三世紀初頭には先坊は明確な形象を獲得し、『浅茅が露』『いはでしのぶ』などの中世王朝物語の世界で安定した存在感をもって多出するようになったと思われる。同時に、歴史物語の系統では皇位継承史の要諦として枢要な役割を果たし続ける。『大鏡』では先坊の母后として「大后」穏子が皇位継承を主導し、『今鏡』では立坊していない敦文親王が先坊として機能し、『六代勝事記』でも仲恭帝が先坊の扱いを受けて皇統変更を象徴する。これらの伝流を継受して、『増鏡』の先坊邦良親王が造型されたのである。和歌文学、歌物語、作り物語、歴史物語で醸成された先坊が『増鏡』の邦良親王像に結実したとも言える。
著者
大橋 直義 福田 景道
雑誌
歴史叙述と文学
巻号頁・発行日
pp.27-40, 2016

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