- 著者
-
Han John J.
久保田 文
- 出版者
- 文化学園大学
- 雑誌
- 文化学園大学紀要. 人文・社会科学研究 = Journal of Bunka Gakuen University (ISSN:21871124)
- 巻号頁・発行日
- vol.22, pp.83-93, 2014-01
ジョン・スタインベックは,1962年のノーベル文学賞受賞演説において,mass methodのために人類が精神的危機にある,と指摘した。彼に言わせれば,大量生産的手法は,経済のみならず政治や宗教,人々の物の考え方にまで浸透して芳しくない影響を与えていた。そして彼は,人々の想像力の自由を奪うものとは断固として戦う,と述べた。スタインベックが個人の創造力を生かしきれない大企業や心なく非倫理的な実業家を嫌ったことは一般によく知られているが,彼の作品を細かく見ていくと,ビジネスマンが一貫して批判的に描かれているわけではないことがわかる。本論文では,数々の作品におけるビジネスマンの扱われ方を精読した上で,利潤に突き動かされた貪欲なタイプのビジネスマンが消費者の暮らしを遠隔操作し,本来労働者が得るべきものを搾取し,違法なビジネスを展開した場合に,作者が嫌悪する対象となっていたことを検証する。また,彼は個々人の人生や家庭生活が大量生産の組織にのみこまれ犠牲となっていくことに対し,非常にネガティブな見解を示しており,ここにスタインベックが重視し続けたものが鮮明に浮かび上がる。