著者
Han John J. 久保田 文
出版者
文化学園大学
雑誌
文化学園大学紀要. 人文・社会科学研究 = Journal of Bunka Gakuen University (ISSN:21871124)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.83-93, 2014-01

ジョン・スタインベックは,1962年のノーベル文学賞受賞演説において,mass methodのために人類が精神的危機にある,と指摘した。彼に言わせれば,大量生産的手法は,経済のみならず政治や宗教,人々の物の考え方にまで浸透して芳しくない影響を与えていた。そして彼は,人々の想像力の自由を奪うものとは断固として戦う,と述べた。スタインベックが個人の創造力を生かしきれない大企業や心なく非倫理的な実業家を嫌ったことは一般によく知られているが,彼の作品を細かく見ていくと,ビジネスマンが一貫して批判的に描かれているわけではないことがわかる。本論文では,数々の作品におけるビジネスマンの扱われ方を精読した上で,利潤に突き動かされた貪欲なタイプのビジネスマンが消費者の暮らしを遠隔操作し,本来労働者が得るべきものを搾取し,違法なビジネスを展開した場合に,作者が嫌悪する対象となっていたことを検証する。また,彼は個々人の人生や家庭生活が大量生産の組織にのみこまれ犠牲となっていくことに対し,非常にネガティブな見解を示しており,ここにスタインベックが重視し続けたものが鮮明に浮かび上がる。
著者
豊田 かおり
出版者
文化学園大学
雑誌
文化学園大学紀要. 人文・社会科学研究 = Journal of Bunka Gakuen University (ISSN:21871124)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.101-114, 2014-01

大正末期から昭和初期にかけて,日本は近代化が進展し,西欧の文化や思想が一般に浸透しはじめた。第一次世界大戦後,女性の進学や就職の増加に伴い,上流階級ばかりではなく,一般の女性たちがシンプルで機能的な洋服を着用しはじめ,西欧のファッションが同時代的に取り入られていくようになった。さらに1923(大正12)年の関東大震災を契機に合理的・近代化の象徴である洋服の着用がメディアによってさらに促進された。女性たちは長い黒髪を切り,洋服を着こなし,「モダンガール(通称モガ)」と呼ばれるようになった。しかし,さまざまな分野で注目を浴びたモダンガールは,東京人のパーセンテージにすれば,ごくわずかであった。やがてモダンガールには「毛断」ガールという蔑称までつき,その自由で活発な行動が非難されはじめた。本研究では,「モダンガール」が文学作品においてどのように描かれていたか見ていくべく,龍胆寺雄の『放浪時代』,広津和郎の『女給』を取り上げた。