著者
寺内 大輔 谷本 由貴美
出版者
初等教育カリキュラム学会
雑誌
初等教育カリキュラム研究 (ISSN:21876800)
巻号頁・発行日
no.5, pp.41-56, 2017-03-31

本論文は,筆者のひとりである寺内が授業者となって行った,小学校における授業実践をとおして,ジョン・ゾーン(John Zorn)の考案した集団即興演奏の方法《コブラ(Cobra)》の教育的意義を検討するものである。寺内は,以前,2013年に広島市立A小学校第5学年児童を対象に,簡易化されたルールによる《コブラ》の実践を行い,多様な表現を引き出す活動としての意義や,児童一人ひとりの〈ストレングス〉を生かすための実践としての可能性を考察した(寺内2015)。本論文では,2015年に同小学校第4学年児童を対象にして行った実践を対象とする。前述した2013年の実践での考察をふまえ,児童の普段の姿をよく知る学級担任である谷本との振り返りをとおして,児童一人ひとりが自らの〈ストレングス〉をどのように生かしているかを検討するとともに,《コブラ》を学習材とした活動にどのような学びが埋め込まれているかを検討した。In this thesis, we examine the educational value of Cobra, one of John Zorn's masterpieces of group improvisation, as learning material through performances in classes at an elementary school where Terauchi, one of the authors, taught. In 2013, Terauchi felt that performances of Cobra could empower and encourage various kinds of expression among fifth-grade students in an elementary school in Hiroshima(Terauchi 2015). We also examined classwork for fourth-grade children in the same school, and on the basis of previous classwork, from 2013, we considered how children might become empowered, using their own strengths. We also consider "situated learning" from the viewpoint of Tanimoto, who as a homeroom teacher, is very familiar with children's usual characteristics.本稿は,寺内の学位論文「ジョン・ゾーン《コブラ》の研究―即興演奏を素材としたコラージュとゲームをめぐる考察―」(2016)付録1「《コブラ》の教育的意義の検討―筆者による2つの授業実践を通して」第2章「小学校音楽科における実践2―2015年実践」の内容を一部修正したものである。本研究は,JSPS科研費15K04501の助成を受けたものである。
著者
澤口 哲弥
出版者
初等教育カリキュラム学会
雑誌
初等教育カリキュラム研究 (ISSN:21876800)
巻号頁・発行日
no.6, pp.51-62, 2018-03-31

近年の国語科における「クリティカルな読み」の指導理論は,社会的・文化的文脈からテクストを読む視座がなく,読むことが社会的実践となり得ていない実態があった。本研究は,このような問題を乗り越え,読むことを社会的実践とするべく新たに国語科クリティカル・リーディング(以下,国語科CR)の指導理論,カリキュラムを提案し,その具体的な適用事例として現行の小学校国語科教科書の検討,および教材・手引きの改編を提案するものである。改編した教材・手引きは小学校の児童を対象に調査をし,その結果をふまえて再修正を図った。調査の結果,読解プロセスの枠組みに関する基本的な理解は得られたものの,「推論」に関して習熟していないことが示唆された。また,国語科CRのフレームワークからの設問については満足いく解答が得られず,国語科の学びを社会的・文化的文脈に乗せていくための指導法の確立が今後の課題として残った。In Japanese language education, the standard method of teaching critical reading lacks the concept of reading texts within a social and cultural context. As a result, reading cannot be a social practice. Under these circumstances, this research newly introduces a teaching method and a curriculum of critical reading in Japanese language education (hereinafter referred to as "Japanese CR" ), discusses Japanese textbooks currently used in primary schools, and proposes the reform of teaching materials and the teaching guide. The reformed materials and guide were piloted in primary schools to develop recommendations for further revision.The results imply that primary school learners fundamentally understood the reading comprehension process, but were not proficient in deduction. Furthermore, learners did not provide satisfactory answers to questions based on the framework of Japanese CR. Further research is still needed to refine the teaching method, allowing learners to learn Japanese language within a social and cultural context.
著者
細 恵子
出版者
初等教育カリキュラム学会
雑誌
初等教育カリキュラム研究 (ISSN:21876800)
巻号頁・発行日
no.8, pp.25-36, 2020-03-31

本稿の目的は,同一作者の絵本を読む国語科において,「深い学び」を具体化するために,思考方法を検討し,読解だけでなく読書活動にも応じた発問を構想し,読み方や考え方の可能性を示すことである。本稿では,小学校第2学年の単元「スイミー」の中に絵本『スイミー』,『フレデリック』,『コーネリアス』を取り上げ,総合的な学習の時間に活用される「考えるための技法」と,発問に関する先行研究を援用して行った教材研究を示している。結果としては,「何と何とを関連付けて何を考えるのか」を具体化することにより,多様で視野の広い発問を構想することができた。本稿で示した思考方法と発問は,読む力とともに学びに向かう力,人間性等の育成にも資する可能性がある。
著者
柴 一実
出版者
広島大学大学院教育学研究科初等カリキュラム開発講座
雑誌
初等教育カリキュラム研究 (ISSN:21876800)
巻号頁・発行日
no.1, pp.9-20, 2013-03-31

1946(昭和21)年,原爆によって廃墟と化した広島において,子ども向け雑誌『銀の鈴』が広島図書より発行された。1950(昭和25)年発行の高学年用『銀の鈴・4年生』と『銀の鈴・5年生』の「りかのかんさつ・やっかいな虫」「理科図鑑一害虫をふせぐには」「りかのかんさつ・夏の星座」「夏の星座(図版)」「理科と実験・たべものと私たちのからだ」について分析したところ,これらの内容は文部省著作教科書『小学生の科学』(1949)や検定教科書『よいこのかがく』(1951)と関連づけられていることが分かった。中には,両者の教科書で指定されている学年を繰り上げて,『銀の鈴』の内容が取り上げられていたり,教科書にはない簡易実験が取り上げられている。戦後の児童用教育出版物の乏しい時代にあって,雑誌『銀の鈴』は発行期間がわずか8年間ではあったが,科学読み物として子どもを自然の世界へと誘う役割を果たしていたと考えられる。
著者
寺内 大輔 明道 春奈
出版者
広島大学大学院教育学研究科初等カリキュラム開発講座
雑誌
初等教育カリキュラム研究 (ISSN:21876800)
巻号頁・発行日
no.2, pp.35-48, 2014-03-31

小学校現場において,子ども達は,音楽科の授業はもちろんのこと,「朝の会」や行事等,様々な機会に歌を歌う。その際に伴奏楽器として用いられる楽器は,ピアノ,キーボード,ギターなどがあるが,これらの楽器を苦手とする教員は少なくない。そこで,筆者らは,楽器の技術の乏しい教師が伴奏を簡単にできるようになるために,コードネームに基づく伴奏を前提に,ギターを変則チューニングに設定する手立てに着目した。先行実践を参考に,将来教員を志望する学生4名(いずれもギター未経験者)を対象とした簡易伴奏法の指導を行った。本論文では,その経過と成果・課題を振り返り,教員養成課程の指導内容のひとつとして変則チューニングによるギターの伴奏を取り入れることの可能性と課題を明らかにした。