著者
寺内 大輔
出版者
日本音楽表現学会
雑誌
音楽表現学 (ISSN:13489038)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.55-72, 2017-11-30 (Released:2020-05-25)
参考文献数
58

本稿は、アメリカの音楽家、ジョン・ゾーン(John Zorn 1953— )の代表作《コブラ(Cobra)》(1984)を対象とし、その演奏行為に内在する〈ゲーム〉としての特質を考察する論文である。まず、〈ゲーム〉としての特質が内在する音楽のなかで、《コブラ》以前にゾーン以外の作曲家によって作られた諸作品が持っていた特質を振り返る。次に、《コブラ》における奏者間のやり取りに着目した検討を行い、演奏の進行を司る〈プロンプター〉が〈ゲーム〉を活性化させるためにトリックスターとしての性格を有していることを指摘し、また演奏者相互のやり取りが流動的な関係性のなかで 展開していることを論じる。それをふまえ、《コブラ》の演奏行為に含まれる〈ゲーム〉としての特質を 4 つの視点で考察 する。最後に、〈ゲーム〉としての《コブラ》が多様な側面を持っていること自体が、前述の《コブラ》以前に作られた諸作品には見られなかった特質―面白さを生み出したと結論づける。
著者
寺内 大輔 谷本 由貴美
出版者
初等教育カリキュラム学会
雑誌
初等教育カリキュラム研究 (ISSN:21876800)
巻号頁・発行日
no.5, pp.41-56, 2017-03-31

本論文は,筆者のひとりである寺内が授業者となって行った,小学校における授業実践をとおして,ジョン・ゾーン(John Zorn)の考案した集団即興演奏の方法《コブラ(Cobra)》の教育的意義を検討するものである。寺内は,以前,2013年に広島市立A小学校第5学年児童を対象に,簡易化されたルールによる《コブラ》の実践を行い,多様な表現を引き出す活動としての意義や,児童一人ひとりの〈ストレングス〉を生かすための実践としての可能性を考察した(寺内2015)。本論文では,2015年に同小学校第4学年児童を対象にして行った実践を対象とする。前述した2013年の実践での考察をふまえ,児童の普段の姿をよく知る学級担任である谷本との振り返りをとおして,児童一人ひとりが自らの〈ストレングス〉をどのように生かしているかを検討するとともに,《コブラ》を学習材とした活動にどのような学びが埋め込まれているかを検討した。In this thesis, we examine the educational value of Cobra, one of John Zorn's masterpieces of group improvisation, as learning material through performances in classes at an elementary school where Terauchi, one of the authors, taught. In 2013, Terauchi felt that performances of Cobra could empower and encourage various kinds of expression among fifth-grade students in an elementary school in Hiroshima(Terauchi 2015). We also examined classwork for fourth-grade children in the same school, and on the basis of previous classwork, from 2013, we considered how children might become empowered, using their own strengths. We also consider "situated learning" from the viewpoint of Tanimoto, who as a homeroom teacher, is very familiar with children's usual characteristics.本稿は,寺内の学位論文「ジョン・ゾーン《コブラ》の研究―即興演奏を素材としたコラージュとゲームをめぐる考察―」(2016)付録1「《コブラ》の教育的意義の検討―筆者による2つの授業実践を通して」第2章「小学校音楽科における実践2―2015年実践」の内容を一部修正したものである。本研究は,JSPS科研費15K04501の助成を受けたものである。
著者
森保 尚美 圓城寺 佐知子 権藤 敦子 寺内 大輔
出版者
広島大学学部・附属学校共同研究機構
雑誌
学部・附属学校共同研究紀要 (ISSN:13465104)
巻号頁・発行日
no.42, pp.67-76, 2014-03-24

本研究の目的は,児童一人ひとりの自発的な音楽表現を起点として音楽科の特性に応じた思考を発展させ,さまざまな音楽文化に能動的・主体的にかかわっていけるような,音楽科における次世代のカリキュラムの開発を行うことにある。小学校低学年を対象に「児童の音楽的思考を育む」ことを目標に授業を行い,今年度は音楽的思考の範囲の拡大に向けて学びのあり方を再考した。母語を出発点とした個の表現を引き出す活動が中心であった昨年度に対して,今年度は,個の身体的・視覚的なイメージ,言葉の表現を出発点とした鑑賞・歌唱・音楽づくりに活動の分野を拡大した。授業では,友だちと自分の表現を重ねる活動や,他者(作詞者・作曲者・他の鑑賞者・友だち)のイメージや解釈との出会いや共感を学習過程に位置づけることによって,静止画から動画へと展開するような解釈の深まり,表現の変容が認められた。考察を通して,個の感受・表現から出発し,他者と出会い共感して,再び自らの感受へと戻るプロセスの重要性,低学年児童の発達段階における想像的な思考の位置づけ,伝達=習得型ではない音楽文化の学習観に立つカリキュラム開発の重要性が確認された。This study develops a new music curriculum for lower elementary school grades, to foster students' thinking ability regarding music through self-expression (physical, visual, and verbal) and to broaden the range of their experience of musical culture through the activities of listening, singing, and music making. As a result, we found that the students tended to change their interpretation of musical images through interaction with other classmates and teachers, and with exposure to the music of songwriters and composers. We realized the importance of the students' learning process in which initial self-confidence returned through empathetic contact with others. We confirmed the importance of developing a musical curriculum beyond the standard teaching-learning model (teacher to student transmission), which takes into account the significant effect of human interaction on the development of young children's imagination and creativity.
著者
寺内 大輔 明道 春奈
出版者
広島大学大学院教育学研究科初等カリキュラム開発講座
雑誌
初等教育カリキュラム研究 (ISSN:21876800)
巻号頁・発行日
no.2, pp.35-48, 2014-03-31

小学校現場において,子ども達は,音楽科の授業はもちろんのこと,「朝の会」や行事等,様々な機会に歌を歌う。その際に伴奏楽器として用いられる楽器は,ピアノ,キーボード,ギターなどがあるが,これらの楽器を苦手とする教員は少なくない。そこで,筆者らは,楽器の技術の乏しい教師が伴奏を簡単にできるようになるために,コードネームに基づく伴奏を前提に,ギターを変則チューニングに設定する手立てに着目した。先行実践を参考に,将来教員を志望する学生4名(いずれもギター未経験者)を対象とした簡易伴奏法の指導を行った。本論文では,その経過と成果・課題を振り返り,教員養成課程の指導内容のひとつとして変則チューニングによるギターの伴奏を取り入れることの可能性と課題を明らかにした。