著者
宇野 重規
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:21894256)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.43-52, 2020-06-11

本稿は,ロールズの政治哲学と,ソローやホイットマンに代表されるアメリカの超越主義の伝統との関係を検討するものである.ロールズが自らの正義論を展開するにあたって,アメリカの伝統的思想に言及することは少ない.しかしながら,市民的不服従を強調したソローをはじめ,ロールズとアメリカの伝統的思想との間には予想以上に連続性があるのではないか.超越主義は,人間を本来,善なるものとして捉え,原罪を否定する.これを受けてソローは,人間の自己とその良心を重視し,これを抑圧するものへの市民的不服従を主張した.市民的不服従は,それを通じて社会の多数派の良心に訴えかけるものであり,ロールズの正義感覚の議論との間に共通性がある.さらにホイットマンは,宗教と切り離された世俗の道徳法則として,正義と民主主義を論じようとした.このような点において,アメリカの伝統的思想は,ロールズの政治哲学にも影響を及ぼしていると考えられる.特集 リベラルな社会を読み解く
著者
宇野 重規
出版者
東京大学社会科学研究所
雑誌
社會科學研究 (ISSN:21894256)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.89-108, 2013-03-26

本稿は、「リベラル・コミュニタリアン論争」の歴史的再評価を行うものである。サンデルをはじめとするコミュニタリアンは、ロールズに対し「負荷なき自我」の概念をもって批判を加え、これに対しロールズも一定の譲歩を行ったとされる。しかしながら、その後もサンデルは、選択の自由を自己目的化することは、有徳な市民の涵養に対して否定的な効果をもつだけでなく、さらにリベラリズムの精神的基盤そのものを掘り崩すとして、ロールズへの批判を続けた。本稿はこのようなサンデルの批判を分析する一方で、はたしてそのような批判がロールズの『正義論』の本質を捉えたものであるかを再検討する。デモクラシーを自己制御するための原理を、超越的な理念に頼ることなく、あくまで多様な個人を抱えるデモクラシー社会の内的な「均衡」によって導こうとするロールズの理論的意義は、サンデルらの批判によっても否定しえないというのが本稿の結論である。特集 社会科学における「善」と「正義」