著者
松﨑 堅太朗
出版者
中小企業会計学会
雑誌
中小企業会計研究 (ISSN:2189650X)
巻号頁・発行日
vol.2015, no.1, pp.41-52, 2015 (Released:2020-10-05)

我が国における中小企業の会計は,基準設定に留まらず,政府施策に取り込まれ,中小企業の成長育成モデルとして構築・運用されている点が最大の特徴である。元来,我が国の中小企業の会計は決算書の信頼性を高め,金融機関と中小企業との間の信頼性を向上し,必要な時に資金調達を行いたいという,中小企業経営者のニーズに合致しているという点で一貫している。本研究では,「金融機関が作成する実態財務諸表と中小企業の会計との関係」および「期中管理(月次決算・予実管理)を活用した信頼性向上が中小企業に及ぼす効果」を中心に,我が国の中小企業の会計が当初より資金調達という点を重視して構築されてきたこと,および中小企業の決算書が金融機関の審査においてどのように利用されているかを明らかにすることで,中小企業経営者と金融機関の関係性を中心に,あるべき中小 企業会計を活用した金融機関との信頼性向上の方向性とは何かを検討した。 この結果,正しい会計ルールに準拠した財務諸表は,金融機関が企業格付のために作成する「実態財務諸表」の作成の基礎資料として重要な役割を果たしており,さらに金融機関が重視する「将来キャッシュ・フロー」情報については,タイムリーな月次決算や予実管理といった「期中管理」が,中小企業と金融機関の信頼性向上という観点からは重視されている。 今後,中小企業と金融機関との信頼性向上という観点では,決算書自体の信頼性向上(コンピレーション等の活用)に加え,「期中管理」を中心とした正確かつタイムリーな業績管理体制の構築と,金融機関の中小企業に対する適正な評価(事業性評価)の仕組みが構築できるかどうかに,軸足が移行していくものと思われる。
著者
山口 直也
出版者
中小企業会計学会
雑誌
中小企業会計研究 (ISSN:2189650X)
巻号頁・発行日
vol.2018, no.4, pp.34-46, 2018 (Released:2020-10-05)

本論文は,調査対象を限定することによる研究成果の限界を認識しつつ,新潟県燕三条地 域,東京都大田区,大阪府東大阪地域の3 つの産業集積地域を対象として実施した郵送質問票調査に基 づき,これら原価計算・原価管理実践の現状を解明することを目的としている。 分析の結果,回答企業の多くが原価計算,原価管理を導入していることがわかった。ただ,「製造原 価の引き下げ」や「全社レベルのコスト低減」を経営課題として挙げているにも関わらず,原価計算, 原価管理を導入していない企業も相当数存在した。 原価計算の導入状況について,予算の導入状況との関係性を分析したところ,統計的に有意差がみら れた。全社レベルの予算だけでなく,事業単位,製品・サービス単位,部署単位といった部分レベルで の予算も導入している企業は,財務諸表作成目的の原価計算に加え,製品・サービス単位での原価計算 も導入している企業が多かった。 原価管理の導入状況について,原価計算の導入状況との関係性を分析したところ,統計的に有意差が みられた。製品・サービス単位で原価管理を行っている企業は,財務諸表作成目的の原価計算に加え, 製品・サービス単位での原価計算も導入している企業が多く,原価管理を行っていない企業は,財務諸 表作成目的のみの原価計算を行っている企業が多かった。
著者
小川 晃司
出版者
中小企業会計学会
雑誌
中小企業会計研究 (ISSN:2189650X)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.6, pp.2-13, 2020 (Released:2020-10-05)

わが国では,書面添付制度が「税理士による税務に関する保証業務」であるという認識が一般化されていない。そこで,本稿では,1956 年に創設された書面添付制度の7 年前,「税務官公署に対し提出する財務諸表等について証明を行うことを業とした税務公証士を資格者として加える」提案がなされていた事実を踏まえ,書面添付制度の「歴史的経緯」を概観し,当該制度が「税理士による税務申告書の信頼性を高める税務に関する保証業務」である,という考察を行った。 書面添付制度は,税理士が,税理士法第1 条に定める「納税義務の適正な実現を図る」ため,税理士が自らの「資格を賭して」行うものであり,当該業務によって税務申告書の信頼性が高められる。 保証業務は情報の責任者が,独立した第三者にその情報の信頼性を担保してもらい,情報利用者の信頼を得るために行うものである。 ①先行研究によれば,書面添付制度は,税務に関する保証業務という点で「世界でわが国だけに存在する画期的な制度」であり,その位置付けは,「一種の証明行為,監査と同類の性格」,「税務申告書に添付された監査証明書」,「税務監査証明業務」とする有力な見解がある。 ②書面添付制度創設までの経緯において,国税庁が「税理士は税務書類の監査証明業務が出来る」とする試案を大蔵省側と交渉している。 ③税理士には税理士法によって実質的独立性の堅持が求められる。 ④情報利用者(税務官公署)が書面添付制度による税務申告書の信頼性に高い評価を与えていることについて,実績データから証明できる。 ⑤保証業務はその様々な属性から「保証の内容がグラデーションをなして」おり,税務に関する保証業務もその1つと考えられる。 以上の考察から,書面添付制度は,保証業務の趣旨と合致し,当該制度は「税理士による税務に関する保証業務」であるとの結論を得た。