著者
野中 美希 上野 晋 上園 保仁
出版者
Japan Society of Neurovegetative Research
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.87-91, 2023 (Released:2023-06-23)
参考文献数
32

分子標的薬をはじめとする新薬の開発,ならびに医療技術の進歩に伴いがんサバイバーは年々増加している.一方,一部の抗がん剤は心血管機能障害を引き起こすこと,とりわけ免疫チェックポイント阻害薬は致死性の心機能障害を生じることが判明し,がん患者の生命予後やQOLに影響することが懸念されている.加えて,がん自体,およびその進行に伴って生じるがん悪液質によっても心機能障害を起こすことが明らかとなってきたことから,がん悪液質やがん治療がもたらす心機能障害を予防すること,ならびにその治療法を確立することは喫緊の課題となっている.運動療法は,慢性心不全患者において,生命予後を改善すること,加えてがんにおいても再発を防止し抗がん剤治療を完遂することが報告されている.本総説では,がん治療に伴う心機能障害,特にがん悪液質時の心機能障害に対する新しい治療法として,運動療法の治療効果について概説する.
著者
野中 美希 上野 晋 上園 保仁
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.155, no.3, pp.165-170, 2020 (Released:2020-05-01)
参考文献数
21

近年,がんサバイバーの増加とともに,今まで顕在化していなかったがん治療による晩期障害やがん自身によって起こる障害が深刻な問題となっている.抗がん薬や分子標的薬の中には,生命維持に重要な臓器である心臓に障害を与えるものがあること,さらにがん自身によっても心機能障害が起こることが明らかとなり,がん治療における心機能の安定維持が注目されているが,心機能障害発症のメカニズムについてはほとんど不明である.我々は最近,進行がん患者の約80%に出現しがん死因の約20%を占めるとされるがん悪液質を発症する動物モデルを確立した.がん悪液質患者では心機能が低下するとされているが,ヒトと同様のがん悪液質を発症する適切なモデルが少ないため,がん悪液質と心機能の関係については未だ不明な点が多く,解析はほとんど行われていない.そこで本研究では,当研究分野で開発したがん悪液質モデルマウスの心機能の評価を行い,さらにその治療法として自発運動による治療効果を検討した.ヒト胃がん細胞由来である85As2細胞をマウスの皮下に移植することにより,悪液質の指標となる体重,骨格筋重量,摂餌量の低下が観察された.さらに,悪液質の進展とともに,心筋重量が有意に減少し,左室駆出率(LVEF)も低下した.また,回し車による自発的運動により,85As2移植がん悪液質マウスの摂餌量,骨格筋重量の低下が抑制され,さらに心筋重量の減少の抑制ならびにLVEFの改善も認められた.以上のことから,85As2移植がん悪液質マウスは心機能障害を伴っていること,さらに自発運動は悪液質症状のみならず心機能障害も改善する効果があることが明らかとなった.一般に心不全症状の改善を目的に運動療法が導入されていることは知られているが,本研究により,がん悪液質によって誘発される心機能障害に対しても運動療法が治療効果を発揮する可能性が示唆された.
著者
宮野 加奈子 吉田 有輝 坂本 雅裕 上園 保仁
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
看護薬理学カンファレンス 2020東京 (ISSN:24358460)
巻号頁・発行日
pp.ES-2, 2020 (Released:2020-12-28)

オキシトシンは、9 つのアミノ酸から構成されるペプチドホルモンであり、子宮収縮を促すホルモンとして 1906 年に発見された。オキシトシンは視床下部室傍 核(PVN)および視索上核(SON)で合成後下垂体後葉から分泌され、当 初は "出産や子育てに関連するホルモン" として、子宮収縮や乳汁分泌などの 生理作用をもつと考えられていた。しかしその後多くの研究により、オキシトシン は母性・社会行動の形成、抗ストレス、摂食抑制など非常に幅広い生理作用 を持つことが明らかとなり、"愛情ホルモン" あるいは "幸福ホルモン" と呼ばれ るようになった。漢方薬「加味帰脾湯」は 14 種類の生薬で構成されており、神経症、精神 不安、不眠症、貧血などに対して処方され、その効果はオキシトシンの作用と 一部共通している。しかしながら、加味帰脾湯がオキシトシンシグナルに及ぼす 影響については不明である。本講演では、加味帰脾湯がオキシトシン受容体な らびにオキシトシン分泌に関わるイオンチャネルにどのような作用を有するかとい う私たちが最近行っている研究の一部を紹介する。加えて近年、オキシトシンは PVN および SON に加え、脳や脊髄に投射しているオキシトシンニューロンからも分泌され、鎮痛作用を有することが明らかに されてきた。オキシトシンの鎮痛作用には、オキシトシン受容体を介する経路お よび受容体を介さない経路が報告されている。後者はオキシトシン受容体に似 た構造をもつバソプレシン1A 受容体、ならびに痛みのセンサーのひとつである transient receptor potential Vanilloid 1 (TRPV1) などが関与しているこ とが報告されている。加えてオキシトシンの鎮痛作用に、オキシトシンによる内 因性オピオイドの増加、ならびに オ オピオイド受容体の関与が報告されており、 オキシトシンの鎮痛作用にオピオイドシグナルの関与が示唆されている。しかし ながら、オキシトシンのオピオイドシグナルに対する詳細な作用については不明 である。そこで、加味帰脾湯のオキシトシンシグナルに対する作用に加えて、オ キシトシンのオピオイド受容体を介するシグナルへの作用について、当研究室で の研究成果を紹介する。本講演がオキシトシンの多彩な作用を説明する一環 となれば幸いである。
著者
村上 敏史 五十嵐 麻美 宮野 加奈子 上園 保仁 八岡 和歌子 上野 尚雄 鈴木 恵里 石井 妙子 松田 裕美
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.159-167, 2019 (Released:2019-07-16)
参考文献数
28
被引用文献数
1

【目的】終末期がん患者の口腔不快事象に対する半夏瀉心湯の含嗽の有効性を検討した.半夏瀉心湯に蜂蜜を混和することで症状緩和の有効性およびコンプライアンスが向上するか検討した.【方法】対象症例を無作為に振り分けたうえで,半夏瀉心湯または蜂蜜併用半夏瀉心湯含嗽を2週間施行した.開始前後で口腔乾燥,口臭,口内炎,口腔内不快感,含嗽のコンプライアンスについて評価を行った.【結果】対象症例は22例であった.半夏瀉心湯含嗽による口腔内乾燥度の改善,呼気中硫化水素の減少が認められたが,含嗽による臨床効果や含嗽のコンプライアンスと蜂蜜併用の有無に大きな関連は認められなかった.【結論】終末期がん患者の口腔不快事象に対する半夏瀉心湯の含嗽は,患者の生活の質向上に寄与することが示唆されたが,蜂蜜の使用についてはとくに大きな利点は認めなかった.口腔内不快事象を緩和させることは終末期がん患者のケアに有効であると考えられる.
著者
国分 秀也 冨安 志郎 丹田 滋 上園 保仁 加賀谷 肇 鈴木 勉 的場 元弘
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.401-411, 2014 (Released:2014-10-08)
参考文献数
85
被引用文献数
4 2

2013年3月に, 本邦でもメサドン内服錠の臨床使用が開始された. メサドンは, モルヒネ等の他のオピオイドと異なる薬理作用をもち, 呼吸抑制およびQT延長といった重篤な副作用を発現することがある. その原因の1つとして, 体内薬物動態が非常に複雑であることが挙げられる. メサドンは大半が肝臓で代謝されるが, その代謝酵素はCYP3A4, CYP2B6およびCYP2D6など, 多岐にわたる. また, 自己代謝誘導があること, アルカリ尿で排泄が遅延すること, 半減期が非常に長く定常状態に到達するまでに長時間要すること等の問題がある. これらの複雑なメサドンの薬物動態を十分に理解して使用されなければ, 血中メサドン濃度が一定に保たれず, 一過性に上昇することによる重篤な副作用が起きる可能性がある. 本論文では, 臨床医師あるいは薬剤師がメサドンを安全に臨床使用するために必要な薬物動態についてまとめた.
著者
黒田 唯 野中 美希 山口 敬介 井関 雅子 上園 保仁
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.28, no.8, pp.167-174, 2021-08-25 (Released:2021-08-25)
参考文献数
40

痛みは,さまざまな要因で発生し,時に患者の精神をむしばみ苦痛を伴う.適切なペインコントロール,マネジメントは実施されているものの,現在使用されている鎮痛薬,鎮痛補助薬では克服できないものも多く存在している.血管内皮由来の血管収縮作用を有するペプチドとして発見されたエンドセリン(ET)は生体において心血管系に対する作用が強力であるため,これまで循環器疾患にかかわる因子として知られてきた.しかしながら近年,ETはETA受容体(ETAR)を介して痛みを惹起し,がん性疼痛をはじめとする炎症性疼痛や神経障害痛などのさまざまな痛みに関与することが報告されており,疼痛領域においても注目されている.またこれまでの報告から,ETAR拮抗薬はオピオイドの鎮痛作用の増強ならびにオピオイド耐性の解除に関与することが報告されているため,新規鎮痛補助薬としてETARをターゲットとした薬剤開発が期待される.本総説ではET-1と疼痛発現機序に関する知見およびETAR拮抗薬とオピオイド鎮痛シグナルとの関連性について概説し,ETARをターゲットとした新規鎮痛補助薬の可能性について,筆者らの研究とともに報告する.
著者
上園 保仁 宮野 加奈子
出版者
Japan Society of Neurovegetative Research
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.358-365, 2022 (Released:2022-12-21)
参考文献数
25

近年,がん患者のための支持療法の重要性が叫ばれ,漢方薬が支持療法に資する重要な薬剤として位置づけられるようになってきた.また,漢方薬の効果,作用機序が科学的エビデンスをもって語られるようになり,処方の根拠として漢方医学の「証」に加え科学的エビデンスもその根拠となってきた.本稿では,代表的な漢方薬として半夏瀉心湯,六君子湯,大建中湯を取り上げ,基礎,臨床研究から得られた科学的エビデンスを紹介する.併せて今後の漢方薬研究の展望も紹介する.
著者
宮野 加奈子 河野 透 上園 保仁
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.146, no.2, pp.76-80, 2015 (Released:2015-08-10)
参考文献数
26
被引用文献数
1 1

抗がん剤や放射線治療により発症する口内炎は,健常人が経験する口内炎と比較し,炎症が広範囲であり,その痛みは強く,摂食困難,抗がん剤の減量,変更を余儀なくされる場合も多い.現在口内炎に対して推奨される予防・治療法はなく,新たな治療法の確立が必要とされている.我々はこれまでに,漢方薬のひとつである半夏瀉心湯の含嗽が,抗がん剤治療により発症した口内炎に有効であることを臨床試験により明らかにし,さらに半夏瀉心湯の口内炎改善メカニズムを解明するための基礎研究を行っている.抗がん剤投与後,口腔粘膜をスクラッチして口内炎を発生させたGolden Syrian Hamsterの口内炎部位では,炎症・発痛物質であるプロスタグランジンE2(PGE2)量が増加しており,半夏瀉心湯投与によりPGE2は減少し,口内炎は有意に改善された.次に,human oral keratinocyteを用い,PGE2産生に対する半夏瀉心湯の効果を解析した.その結果,IL-1β刺激によるPGE2産生は半夏瀉心湯濃度依存的に抑制され,この抑制作用には半夏瀉心湯を構成している乾姜の成分である[6]-shogaol,ならびに黄芩成分であるbaicalinおよびwogoninが重要であることが明らかとなった.さらに各成分によるPGE2産生抑制メカニズムについて解析を行ったところ,黄芩成分はIL-1β刺激により発現するシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)を阻害することにより,また,[6]-shogaolはPGE2合成関連酵素の活性を阻害することによりPGE2産生を抑制することが示唆された.以上の結果より,半夏瀉心湯の構成生薬成分がそれぞれ異なる作用点を介して総和的にPGE2産生を抑制し,口内炎を改善する可能性が示唆された.
著者
谷山 紘太郎 上園 保仁 林 日出喜 貝原 宗重
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

消化管におけるGABAの作用を生体位(丸ごと)イヌの小腸で検討したところ、摘出小腸を用いて得られた結果と同様にGABA-B受容体を介した反応に加えてGABA-A受容体を介した反応も見られたが、総合的にはGABA-B受容体を介した反応が優勢で、結果としてGABAは消化管のコリン作動性神経からのアセチルコリン(ACh)の遊離を抑制して腸管運動を低下させた。GABA-B受容体拮抗物質でACh遊離の促進して腸管運動が亢進した結果も得られ、生体では、GABA-B受容体が優勢に作動していることが明らかになった(論文1と2)。GABA受容体のうちGABA-B受容体はG蛋白質と共役する受容体である。他のG蛋白質共役型受容体とは異なり、ヘテロ二量体(GABA-B1サブユニットとGABA-B2サブユニット)を形成してはじめて受容体機能を発揮する。GABA-B1サブユニットにはGABAの結合部位が存在し、7種類のタイプがある。GABA-B2サブユニットはG蛋白質との共役部が存在し、1種類のみである。腸管におけるGABA-B受容体の形態を検討した。RT-PCR法でこれらサブユニットのメッセンジャーの存在を調べたところ、GABA-B1とGABA-B2の両サブユニットともにイヌ、ヒトの腸管に存在し、GABA-B1サブユニットではGABA-B1dをのぞくGABA-B1aからGABA-B1gまでの6種類のサブタイプが存在していることが明らかになった(論文3)。かくして、腸管においてGABA-B受容体はヘテロ二量体として存在するものと想定される。GABA-B2受容体がヘテロ二量体を形成し、存在しているのか否かを、二つの発現系、すなわちアフリカツメガエルの卵母細胞とハムスター腎細胞(BHK細胞)を用いて検討した。(1)GABA-B1あるいはGABA-B2のサブユニットをそれぞれ単独に発現した卵母細胞ではGABA-B受容体としての機能を表現することがなかったが、両サブユニットが共発現した卵母細胞ではGABA-B受容体としての機能を表現した(論文4)。(2)2種類の蛍光蛋白標識とそれぞれのサブユニットとの複合体を作成し、BHK細胞に導入、発現させ、共焦点レーザー顕微鏡で観察したところ、GABA-B2サブユニットにG蛋白質が共役していること、GABA-B1aサブユニットはGABA-B2サブユニットと複合体を形成していることを形態学的にも証明できた(論文4)。GABA-B2サブユニットと組み合わせた7種類のGABA-B1サブユニットの性質を検討したところ、GABA-B受容体機能の強さは、1a=1b>1c>1dの順であった(論文投稿中)。また、ヒト食道下部括約筋においても、GABA-B1とGABA-B2の両サブユニットが蛋白質として存在することが判った。二重免疫染色法で食道下部括約筋に分布する神経細胞膜上に両サブユニットが二量体として存在することを見出した(論文投稿中)ので、GABA-B受容体作用薬を逆流性食道炎の治療薬として応用できるものと考えられる。以上の成果から、GABA-B受容体作用薬の消化管運動機能改善薬への用途について、その可能性大であることが明らかになった。GABA-B1サブユニットの組織特異性の解析によって、消化管選択的GABA-B受容体作用薬の創製が可能になる。
著者
志賀 洋介 南 浩一郎 白石 宗大 上園 保仁 松井 稔 堀下 貴文
出版者
産業医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

疼痛発生のメカニズムは脊髄レベルでの機序が解析され始めG蛋白共役型受容体(GPCR)が疼痛発生に関与しているという報告がなされてきた。しかし、麻酔薬や鎮痛薬がこれらの受容体にどのように影響を与えて鎮痛作用を引き起こしているかはいまだに結論が出ていない。脊髄後根神経節(Dorsal Root Ganglia,DRG)細胞は多くの神経ペプチドが含有され、一次求心性線維中枢側から急性侵害刺激により遊離される。最近、グルタミン酸受容体が侵害刺激に関与していることが示唆されている。メタボトロピックグルタミン酸受容体(mGluR)はグルタミン酸が作用するGPCRで、同じGPCRであるムスカリン受容体などとは大きくその構造が異なる。mGluRが痛覚伝達や麻酔鎮痛機序にどのように作用しているのか興味深い。本年度は脊髄レベルでの麻酔薬、鎮痛薬の抗侵害作用におけるmGluRの役割を解析することを目的に以下の研究を行った。培養DRG細胞を用いて麻酔薬、鎮痛薬がmGluR1、mGluR5にどのように影響するかを検討し、細胞内Ca^<2+>の変動に対する、麻酔薬、鎮痛薬の影響を解析した結果、グルタミン酸により細胞内Ca^<2+>は上昇することを確認できた。さらに、アフリカツメガエル卵母細胞発現系を用いてmGluR1、mGluR5に対する影響を電気生理学的に解析し、mGluR1には麻酔薬デクスメデトミジンが抑制する事実を確認した。また、吸入麻酔薬の一部も抑制することを確認している。今後はこれらの反応に細胞内リン酸化酵素が関与を明らかにする。最終的にはmGluRノックアウトマウスを用いて行動薬理学的に鎮痛薬、麻酔薬の抗侵害作用を検討し、麻酔薬、鎮痛薬の抗侵害作用におけるmGluRの役割を総合的に解析したいと考えている。
著者
高田 正史 北條 美能留 上園 保仁 澄川 耕二
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.160-164, 2008-05-25 (Released:2011-12-01)
参考文献数
11
被引用文献数
1 2

フェンタニル単独で除痛が困難であったがん性腹膜炎による腹痛に対して,少量のモルヒネを追加し,腹痛が著減した2症例を報告する.症例1は15歳の女児で,卵巣癌の腹膜播種による腹痛に対して最初の3カ月間はフェンタニル300μg/日で良好な鎮痛が得られていた.その後,腹痛が増強したので1週間で持続フェンタニルを2,400μg/日まで増量し,フェンタニル100μg/回のレスキューを16回/日使用し,ケタミンを併用したが,腹痛はまったく軽減しなかった.モルヒネ(50 mg/日)の持続静脈内投与を追加した後に,腹痛は著減した.症例2は33歳の女性で,胃癌の腹膜播種による腹痛に対して,フェンタニルの持続投与を2週間で9,600μg/日まで増量し,フェンタニル200μg/回のレスキューを25回/日使用し,ケタミンを併用したが,鎮痛効果不十分であった.モルヒネ(150 mg/日)の持続静脈内投与を追加した後に,腹痛は著減した.2症例では,フェンタニルへの耐性が発現していたと考えられた.