著者
渡邊 悠志 岡田 佳那子
出版者
日本酒学研究会
雑誌
日本酒学ジャーナル (ISSN:2758142X)
巻号頁・発行日
vol.2023, pp.1-31, 2023-11-07 (Released:2023-11-07)

清酒容器には、四合びんが一般的な規格として存在しているが、その容量の由来にはいくつかの説がある。本稿では、ガラスびんの導入と国内生産体制確立の過程、清酒業界におけるびん詰酒の導入及び発展過程、そしてその効果を概説し、これらを踏まえ四合と300mLの容量の由来と定着の要因について、史料に基づいて推論を行った。明治時代に導入されたガラスびんは、当初は輸入洋酒の空びんを使用しつつ、明治20年頃から国内生産体制が整備され始め、明治39年頃には機械化が進展し大正期にかけて段階的に生産力が強化された。清酒業界においては、明治末頃から本格的にびん詰製品が着手され始め、大正期にびん詰製品市場が拡大した。こうした状況の中で、空びんを回収して販売する「びん商」という業態が成立し、酒類や醤油に特有なびんを再使用する構造が成立した。四合びんの容量は約750mLが規格である洋酒びん(「通称クォート」びん)に由来し、300mLびんの容量はメートル法への対応により誕生したと考えられる。これらの容量は、国内外産のびんの併存と「びん商」等によるびん再使用により定着したと推測される。
著者
中條 一夫
出版者
日本酒学研究会
雑誌
日本酒学ジャーナル (ISSN:2758142X)
巻号頁・発行日
vol.2022, no.1, pp.30-43, 2022 (Released:2022-12-20)

韓国の伝統こうじヌルクは多様な菌および酵母を繁殖させたものである。しかし、現在の韓国のマッコリ製品の中には日本由来の白こうじ菌を使用した製品がある。このため、韓国内には「韓国の国家無形文化財であるマッコリが日本の無形文化財と同一視されるのではないか」という懸念が存在する。この懸念を検証するため、「韓国のマッコリ製品の中に、日本の登録無形文化財『伝統的酒造り』の登録の要件を満たす製品が存在するか」を調査した。調査の結果、ソウル市内で調査した106点の中にはそのような製品は存在しなかった。本調査は全数調査ではないため、韓国内の懸念に根拠が認められないことが明らかになったとは言えないが、懸念する根拠は希薄であることが示された。このことは、日本と韓国の双方で自国の酒造り文化の無形文化としての保護がより円滑に行われ得ることを示唆する。 キ
著者
後藤 奈美
出版者
日本酒学研究会
雑誌
日本酒学ジャーナル (ISSN:2758142X)
巻号頁・発行日
vol.2023, pp.32-37, 2023-11-07 (Released:2023-11-07)

コロナ禍が清酒の消費に与えた影響を分かりやすく示し、記録することを目的に、日本酒造組合中央会が記者発表する毎月の課税移出量を、コロナ禍前の2018年及び2019年の平均値に対する割合として示した。その結果、清酒の消費量を反映すると考えられる課税移出量は、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置、飲食店への休業や時短営業の要請などが出されると大きく減少し、新規感染者数が減少し、それらが解除されるとある程度回復するという増減を繰り返したこと、また一般酒よりも外食での消費が多いとされる特定名称酒の方が大きく影響を受けたことが示された。2022年下半期の第7波、第8波では、それまでとは比較にならないほど多くの新規感染者数となったが、緊急事態宣言等は発出されず、課税移出量の減少も以前よりは小さくなった。ただし、2018-2019年と比較して80~90%程度と厳しい値であることに変わりはなく、今後の動向が注視される。