著者
田島 夕貴
出版者
アフリカ教育学会
雑誌
アフリカ教育研究 (ISSN:21858268)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.54-66, 2022-12-28 (Released:2023-02-23)
参考文献数
23

1994年にエスニック集団間のジェノサイドを経験したルワンダは、現在エスニシティに基づく分類を廃止し、統一的なナショナル・アイデンティティの確立を目指している。本研究は、初等教育における歴史分野の教科書の分析を行い、歴史教育の中で、どのようにエスニック・アイデンティティが扱われ、どのようにナショナル・アイデンティティの形成が目指されているのかを明らかにする。 教科書では、エスニシティの存在を強く否定し、エスニシティという用語を使わない方法で、エスニック・アイデンティティを隠そうとしていた。それにも拘わらず、実際は加害者と被害者のイメージが強く表れており、エスニック・アイデンティティが隠しきれていない部分も垣間見えた。また、ルワンダの歴史教育において育まれるナショナル・アイデンティティは、国への忠誠心にエスニックな基盤を含む、エスニック・ナショナリズムとして表れていた。そして、ルワンダの歴史教育は、現政権の幹部である「帰還者」目線の歴史であり、ごく一部の人々が認識する歴史を伝えていることが明らかになった。政府はそれを正史とすることで、単一のナショナル・アイデンティティの育成を目指していると考えられる。
著者
田中 紳一郎
出版者
アフリカ教育学会
雑誌
アフリカ教育研究 (ISSN:21858268)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.43-54, 2020-12-28 (Released:2021-05-20)
参考文献数
22

SDG4が掲げる通り公平な教育機会の提供は地球規模の課題・目標だが、国際教育協力プロジェクトのもたらす公平性効果に関する実証研究の蓄積は乏しい。本稿ではセネガルの現職教員研修プロジェクトを事例に、教員、生徒の算数試験における得点を検討した結果、次のような公平性効果を描出した。介入前後で教員(N=368)、生徒(N=2,100)の成績は伸張し、同時に成績格差は縮減した。成績が向上した学校では、生徒間の成績格差が縮減した。プロジェクト介入においては効率性と公平性が同時に成立することが示唆される。さらに、介入直後には得点の標準偏差の縮減が顕著だが、その後縮減は一旦抑制され、介入後7年程度を経て再度、縮減傾向が回復する。また、介入直後には成績下位層の成績伸長が顕わだが、実践持続に伴い次第に成績上位層の伸長が優勢となる。その傍らで裨益から置き去られた学校が支援対象の10%程度あり、プロジェクト介入の公平性効果の限界を示す。教育プロジェクトの公平性効果の発現には、指標の平均のみならず格差にも着目し、置き去り群に対する追加的措置を講じつつ、7年を超える継続的な取り組みが不可欠であると示唆される。