著者
西澤 俊雄
出版者
中央大学経済研究所
雑誌
中央大学経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
no.45, pp.365-384, 2014

今日,わが国は少子高齢化の急速な進展により総人口の4分の1を65歳以上の高齢者が占める社会がやってこようとしている。医療,介護,年金といった社会保障政策はこの高齢者の需要に十分応えることができず,高齢者の将来生活への不安は切実である。 高齢者の将来への不安を解決する1つの方法が年金補填のスキームとなるリバースモーゲージである。わが国ではリバースモーゲージ制度は歴史も浅く,知名度も少ないため広く普及するに至っていない。 本稿は主要各国のリバースモーゲージ制度の歴史を探求し,その普遍的な性質を探ることにより普及への一助とするものである。 リバースモーゲージ制度はフランスに始まったビアジエと呼ばれる独特の方式で,イギリスでその不動産担保金融として,スキームを確立し,アメリカで政府の金融的保証に支えられて発展してきた。それと同様のスキームを韓国では2007年以降,政府の全面的保証を受けて導入され,急速に拡大している。第1次世界大戦以降の英,米,韓,日本のリバースモーゲージのスキームは,それぞれの時代や社会経済制度の違いによって異なった性格を帯びて発展してきている。わが国の制度は1981年から始まったが,この制度の持つリスクや適用対様の制約から広く行き渡るに至っていない。そこで,各国の制度の変遷と内容の比較を行う。次に,わが国の制度の変遷とスキームの違いを比較していく。各国の制度の比較,わが国との比較を通してリバースモーゲージの本質を探り,リバースモーゲージとは何かという定義を探るものである。 「自宅に住み続けながらその自宅を担保に不動産を処分することによって融資金を返済するものである」という定義はリバースモーゲージが不動産融資と金融商品の両面の性質を持つ金融システムの1つのスキームとして確立されたものとなる。
著者
粟倉 大輔
雑誌
中央大学経済研究所年報 (ISSN:02859718)
巻号頁・発行日
no.43, pp.843-878, 2012-09-28

本稿は、明治期日本において製茶再製に従事した女性労働者=「再製茶女工」について論じ、その再評価を試みるものである。この再製技術は中国から導入されたもので、製茶輸出時に施された「火入れ(=乾燥)」と「着色」のことをいう。再製は居留地外商が経営していた「お茶場」で行われ、その現場は中国人男性が監督していた。 本稿では、お茶場における労働内容や内部のヒエラルキー、労働環境、賃金を詳細に検討した。これらの他にも、「再製茶女工」となった女性本人についても論じている。さらに、当時の新聞・雑誌における彼女たちに関する報道の分析を通じて、そのイメージ形成についても検討を加えた。以上を通じて、「再製茶女工」に対する「女工哀史」的な見方を修正する必要があること、また明治期日本の産業発展に未婚・若年労働者だけではなく既婚女性も大きな役割を果たしていたことを明らかにした。