著者
澁川 幸加
出版者
京都大学高等教育研究開発推進センター
雑誌
京都大学高等教育研究 = Kyoto University Researches in Higher Education (ISSN:13414836)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.25-36, 2020-12-01

本稿の目的は、コロナ禍以降の単位制度における遠隔授業をめぐる論点を整理し、その論点に一定の応答をすることである。具体的には、遠隔授業が大学設置基準に制度化された2000 年代初頭以降、新たに登場したブレンド型授業やハイフレックス型授業によって、遠隔授業と面接授業との区別が困難になっているという課題などを指摘した。これら課題への応答ではミネルヴァ大学を事例として取り上げ、コロナ禍以降の単位制度において、(1)授業形態を面接授業が導入される割合により分類し、かつ履修状況を一元管理するシステムを導入することで、現行の遠隔授業と面接授業の区別を継続使用する案、(2)現行の区別に「ブレンド型授業」など新たな区別を加える案、(3)現行の遠隔授業と面接授業という区別を廃止し、時間の同期性のみに基づく新たな区別を設定し、単位制度を運用する案を述べた。
著者
松下 佳代
出版者
京都大学高等教育研究開発推進センター
雑誌
京都大学高等教育研究 = Kyoto University Researches in Higher Education (ISSN:13414836)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.67-90, 2019-12-01

本稿の目的は、汎用的能力を分野固有性と汎用性の関係から捉えること、さらには、先端事例としてミネルヴァ大学のカリキュラムの特徴を明らかにすることを通して、大学教育における汎用的能力の概念とその育成について再考することにある。本稿ではまず、汎用性を「分野固有性に依らない汎用性」「分野固有性を捨象した汎用性」「分野固有性に根ざした汎用性」「メタ分野的な汎用性」という4つのタイプに分類した。このうち、「分野固有性を捨象した汎用性」は見かけの汎用性であり、教育目標にはなりえない。残る3つのうち、「分野固有性に依らない汎用性」と「分野固有性に根ざした汎用性」は対照的な立場にある。前者は、汎用的能力の存在を前提とし、それをリスト化・目標化して育成しようとするのに対し、後者は、能力を基本的には分野固有のものとみなし、それが活用の文脈を広げることで汎用性を徐々に獲得していくと考える。4番目の「メタ分野的な汎用性」は、「分野固有性に根ざした汎用性」を土台として得られる俯瞰性である。続いて、このうち能力の汎用性についての最も強い主張であると考えられる「分野固有性に依らない汎用性」に焦点をあて、その典型例であるミネルヴァ大学の目標・カリキュラム・評価を検討した。ミネルヴァの取組は、学習転移の起こりにくさを根拠に能力の汎用性を否定する主張に対するチャレンジであり、カリキュラムマップとは異なるやり方でカリキュラムの体系化を図る方法を提示した点で注目されるが、日本の大学にそのまま採り入れることは困難である。最後に、日本の大学においては、ミネルヴァの成果を部分的にふまえながら、「分野固有性に根ざした汎用性」を追求することが提案された。