著者
松下 佳代
出版者
一般社団法人日本教育学会
雑誌
教育學研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.81, no.2, pp.150-163, 2014-06-30

本稿の目的は、OECD-PISAのリテラシー概念がどのような性格をもち、参加国の教育政策にどのような影響を与えているのかを検討することを通じて、PISAリテラシーを「飼いならす」(Hacking, 1990)こと、すなわち、その影響をコントロール可能なものにすることにある。本稿ではまず、PISAが、マグネット経済や機械との競争というロジックに支えられながら、教育指標としての規範性を強め、国家間の比較と政策借用を通じて教育改革を促す道具になっていることを明らかにした。さらに、1950年代以降のリテラシーの概念史の中に位置づけることによって、PISAリテラシーが<内容的知識やポリティクスの視点を捨象し、グローバルに共通すると仮想された機能的リテラシー>という性格をもつことを浮きぼりにした。ナショナルなレベルでの教育内容の編成にあたっては、捨象されたこれらの部分を取り戻し、能力と知識の関係を再構成する必要がある。
著者
小野 和宏 松下 佳代 斎藤 有吾
出版者
一般社団法人 日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.27-46, 2023-01-20 (Released:2023-02-01)
参考文献数
40

本研究の目的は,専門教育で身につけた問題解決スキルが汎用性をもちうるかを明らかにすることである.PBL カリキュラムで口腔保健・福祉分野を学んでいるX 大学歯学部3年生を対象に,まず問題解決プロセスの習得度をパフォーマンス評価により直接評価した.ついで,そのうちの15名を対象に,専門教育で身につけた問題解決プロセスの理解度と日常場面への適用に関して学生インタビューを行った.その結果,専門教育で問題解決プロセスの理解度・習得度が高まると,そこで獲得した問題解決スキルは専門教育から遠い日常の場面へも転移しうることが示唆された.また,問題解決プロセスの理解度・習得度を高めるうえで,PBL での協調学習や学習課題の設定・情報探索が効果的である可能性が示された.これらの結果は,専門教育で身につけた能力が汎用性をもつ過程を例証している.
著者
松下 佳代
出版者
京都大学高等教育研究開発推進センター
雑誌
京都大学高等教育研究 (ISSN:13414836)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.75-114, 2012-11-30

The purpose of this paper is to analyze how the assessment of the quality of learning in higher education is conducted through performance assessment and to identify what conflicts arise between two paradigms. First, to depict the structure of the arguments of learning assessment we set two axes, one of which was the axis of direct measures vs. indirect measures; the other was the axis of psychometrics paradigm vs. alternative assessment paradigm. Next, we observed two trends in present performance assessment movements which reflect two contrastive paradigms, even though performance assessment was originally proposed under the alternative assessment paradigm. One trend is to construct an objective standardized test of performance assessment type, a representative example being the Collegiate Learning Assessment (CLA) adopted by the OECD's Assessment of Higher Education Learning Outcomes (AHELO). The other trend is to collaboratively develop performance assessments advanced by Alverno College and the Valid Assessment of Learning in Undergraduate Education (VALUE) Project of the American Association of Colleges & Universities (AAC&U). Lastly, we produced the contrast between limited academic learning and the whole student engagement as the third axis of learning assessment arguments. We can analyze the types of present learning assessment activities along these three axes.
著者
松下 佳代
出版者
京都大学
雑誌
京都大学高等教育研究 (ISSN:13414836)
巻号頁・発行日
no.18, pp.75-114, 2012-12-01
被引用文献数
1

The purpose of this paper is to analyze how the assessment of the quality of learning in higher education is conducted through performance assessment and to identify what conflicts arise between two paradigms. First, to depict the structure of the arguments of learning assessment we set two axes, one of which was the axis of direct measures vs. indirect measures; the other was the axis of psychometrics paradigm vs. alternative assessment paradigm. Next, we observed two trends in present performance assessment movements which reflect two contrastive paradigms, even though performance assessment was originally proposed under the alternative assessment paradigm. One trend is to construct an objective standardized test of performance assessment type, a representative example being the Collegiate Learning Assessment (CLA) adopted by the OECD's Assessment of Higher Education Learning Outcomes (AHELO). The other trend is to collaboratively develop performance assessments advanced by Alverno College and the Valid Assessment of Learning in Undergraduate Education (VALUE) Project of the American Association of Colleges & Universities (AAC&U). Lastly, we produced the contrast between limited academic learning and the whole student engagement as the third axis of learning assessment arguments. We can analyze the types of present learning assessment activities along these three axes.
著者
斎藤 有吾 小野 和宏 松下 佳代
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.40, no.Suppl., pp.157-160, 2017-01-15 (Released:2017-03-06)
参考文献数
11

近年,大学教育では,学習成果の直接的指標と間接的指標との関連が活発に議論されている.本研究では,ある歯学系のコースのパフォーマンス評価を事例とし,教員の評価と学生の自己評価 (直接評価) と,学生の学生調査用アンケート項目への自己報告 (間接評価) との関連を検討し,そこからそれぞれの評価が担うべき役割と射程を議論する.
著者
田口 真奈 松下 佳代 半澤 礼之
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.269-277, 2011-12-20 (Released:2016-08-08)
参考文献数
8

2009年度から開始された京都大学文学研究科プレFDプロジェクトのために,ENGESTROM(1994)の「教授の計画と分析のためのフォーム」を改変し,個別作業で利用可能な,教授のデザインとリフレクションのためのワークシートを開発した.授業実施後の研修会で運用した結果,当初想定した本ワークシートの特徴((1)〜(3))のうち,(1)学生の学習の観点から教授をリフレクションし,個々の教授機能をとらえなおすこと,(2)「一斉講義形式」の授業を相対化し,他に多様な選択肢が存在することを理解すること,にとって有効であるとの結論を得た.しかしながら,(1)の今後の教授デザインを検討すること,(2)の多様な選択肢から根拠をもって選択すること,(3)授業を学習サイクルを実現する一連の教授プロセスとしてとらえることには至らず,より体系的なプログラムの開発とコーディネーター教員を巻き込む組織化が課題として残った.
著者
松下 佳代
出版者
一般社団法人 日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.81, no.2, pp.150-163, 2014 (Released:2015-06-18)
参考文献数
51
被引用文献数
4

本稿の目的は、OECD-PISAのリテラシー概念がどのような性格をもち、参加国の教育政策にどのような影響を与えているのかを検討することを通じて、PISAリテラシーを「飼いならす」(Hacking, 1990)こと、すなわち、その影響をコントロール可能なものにすることにある。本稿ではまず、PISAが、マグネット経済や機械との競争というロジックに支えられながら、教育指標としての規範性を強め、国家間の比較と政策借用を通じて教育改革を促す道具になっていることを明らかにした。さらに、1950年代以降のリテラシーの概念史の中に位置づけることによって、PISAリテラシーが〈内容的知識やポリティクスの視点を捨象し、グローバルに共通すると仮想された機能的リテラシー〉という性格をもつことを浮きぼりにした。ナショナルなレベルでの教育内容の編成にあたっては、捨象されたこれらの部分を取り戻し、能力と知識の関係を再構成する必要がある。
著者
松田 岳士 松下 佳代
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.521-528, 2014

本論は,活動理論が高等教育における教育実践にどのような示唆を与えることができるかを探ることを目的とする.そのために,活動理論の中でもユーリア・エンゲストローム(ENGESTROM, Y.)の探究的学習理論に着目し,それに基づいた授業デザインおよび実践を行う.実践を担当した教員は,これまで最終的な行動目標から遡って教授内容を設計するインストラクショナルデザイン(ID)モデルに基づいて授業を開発してきたが,本研究では探究的学習理論に立脚したIDによって授業を設計・実践した.その結果,ゴールから遡る方法が,基本的な教授要素を認知的目標と対応させながら成長させていく授業設計方法に変化し,探究的学習理論の6段階のステップが教授方法の選択に影響を与えていることが確認できた.