著者
鈴木 敏正
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
no.104, pp.249-280, 2008

2006年末の教育基本法改定以来,教育をめぐるヘゲモニーの重要な焦点が「教育振興基本計画」となり,カウンター・ヘゲモニーとしての「地域生涯教育計画」を展開することが実践上の重要課題となっている。このように見る時,まずグラムシのヘゲモニー論から教育計画論が学ぶべきことを整理しておく必要があるであろう。 しかし,これまでのグラムシ研究の限界もあり,旧来の教育計画論がグラムシを十分にふまえて理論展開をはかったとは言えない。現段階においては,グラムシ研究の今日的発展の成果もふまえて,教育計画論がグラムシから何を学び,何を発展させる必要があるかが検討されなければならない。そこでの大きな問題は,第1に,そもそも教育学の立場からグラムシをどう理解するかという研究がきわめて希薄であるということである。第2に,教育学のどの領域(論理レベル)において(したがって,グラムシのどのような理論とのかかわりで)「教育計画」を語るかが明確でないということである。 本稿では,まずIで,「グラムシと教育計画論」というテーマがいかにして成り立つかについて簡単にふれてみる。次いでIIにおいて,グラムシ理論をふまえて教育計画論へアプローチするにあたっての基本的視点を述べる。そしてIIIからVにおいて,筆者が考える教育学=「主体形成の教育学」の立場から,原論・本質論・実践論の3つの領域において,グラムシの思想を教育学としてどのように読み取ることが可能であるかについて述べ,教育学が「グラムシとともにグラムシを超えて」いく方向を考えてみる。 IIIでは,とくに人格の構造的把握と教育基本形態とくに教育労働論にかかわる議論をグラムシ理論との関連において取り上げる。IVでは,現代教育構造の把握と,それを前提にした政治的国家の諸形態と構造,現代的人格の社会的形成過程,さらにグラムシのサバルタン論とのかかわりにおける社会的排除問題について述べる。Vでは,グラムシの教育・文化活動論を現代的人格の自己教育過程として捉え直した上で,教育実践展開の論理とグラムシの知識人論との関係を論じる。 これらをふまえて,VIにおいては,グラムシの「実践の哲学」を発展させていく方向において,現代教育計画論の課題を考えてみたい。すなわち,教育計画の基本的理解,教育計画論におけるグラムシの位置,教育計画化への「別の道」とくにアソシエーションの役割を提起する。VIIでは,グラムシ的視点から教育計画論を発展させていく課題と,それまでふれられなかったグローバル・ヘゲモニー論などとの論点かかわりで,「グラムシを超えてグラムシとともに進む」課題を述べる。
著者
山内 聡也
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
no.102, pp.91-106, 2007

本論文は,犀の寓意像が近世ヨーロッパ人の新大陸の認識にどのような影響を与えたのかといった点を図像学的側面から考察する。犀の象徴性は,新大陸の擬人像の典型であった「インディアンの女王」が引き連れるアルマジロの象徴性と重なる。それはイメージの連鎖を生み出し,ブラジルやアフリカ,そしてヨーロッパといったそれぞれを象徴する地域の区別も曖昧にする。犀の象徴性は,ヨーロッパとは異なる場所という二極化した構図でとらえられる一方,同時代に海外進出を始めたヨーロッパ自身のあり方をも映し出すのであった。ヨーロッパの人々は非ヨーロッパ世界をどう思い描いたのか,という帝国主義の眼差しの問題は近年精力的に論じられているが,個別の事例による分析はまだ不十分である。個別のテーマに絞って変貌していく眼差しの様相を描くことは,西洋と東洋,文明と野蛮といった二次元的な見方に陥っていた新大陸の表象の研究に学術的意義を与える。