著者
孫 詩彧
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.129, pp.1-15, 2017-12-22

本研究は権力過程に焦点を当て,先行研究を批判的に整理するものである。夫妻の権力関係を議論する際,研究者による測定と当事者自らの評価に不一致が見られた。それを説明するため,権力がどのように作用するかの過程に注目して研究がなされてきた。これまでの研究では次の二つの次元から過程が捉えられてきた。第一に「家庭内重大事項の最終的意思決定に至るまでのプロセス」,第二に夫妻の権力関係そのものが形成されるプロセスが挙げられる。資源の内容を経済的から文化的,情緒的なものなどに広げつつ,社会構造と関連付けて夫妻間の意識的・無意識的な交渉,依存関係,権力の顕在的・潜在的・不可視的な形とその規定要因が議論されてきた。だがほとんどの研究は権力を客体化し,能力として捉えるため,権力の過程が二次的な存在となる。この問題は近年の研究において指摘され,権力を関係として捉え直す視点から研究が展開されつつある。
著者
長橋 聡 新井 翔 佐藤 公治
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.113, pp.81-108, 2011-08-22

【要旨】本論では,ヴィゴツキーがゲシュタルト心理学の立場から展開された発達理論に関してその理論的可能性についてどのような立場を取っていたのかを考察する。ヴィゴツキーはゲ シュタルト心理学に対しては,行動主義が取った要素還元主義を超えるものとして肯定的な評価を下している。このことは,彼の多くの著書で明らかになっている。ヴィゴツキーがゲシュ タルト派の発達理論に対してどのような批判的検討を行っていたのかを明らかにすることは,ヴィゴツキーの発達に対する理論的姿勢を明確にしていくことでもある。ここではゲシュタル ト派発達論として知られるクルト・コフカの理論についてヴィゴツキーが行った批判論文とその内容を検討する。併せて同じゲシュタルト派発達心理学者のクルト・レヴィンの理論に対し てヴィゴツキーがどのような考え方を取っていたのかを考察する。
著者
堀内 雅弘
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.125, pp.63-78, 2016-03-30

高齢社会の現代,高血圧や動脈硬化といった生活習慣病に加え,老人性筋萎縮症が大きな問題となっている。有酸素トレーニングにより生活習慣病を改善させる試みは多くなされている。一方,このトレーニングの強度だけでは,老人性筋萎縮症を防ぐには不十分なことも報告されているため,近年では老人性筋萎縮症予防に筋力トレーニングが高齢者にも推奨されている。しかしながら,高強度筋力トレーニングは血圧上昇を伴い,血管機能にも悪影響を及ぼす可能性があるため,必ずしも推奨されるとは言えない。これに代わる方法として,低強度負荷に血流制限を加えることで,筋力増強をもたらす方法が考案された。本総説では,高強度の筋力トレーニングと低強度に血流制限を加えたときの筋力トレーニングが血管機能にどのような影響を及ぼすのかを概観する。
著者
岸 靖亮
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.114, pp.21-39, 2011-12-27

高度な社会的行動である欺きを遂行するには,高い知性に基づく複雑な情報処理が要求される。本論文では,欺きとは何か,どのような精神活動や脳機能が必要とされるのかについて検討した。霊長類研究や発達心理学研究の知見を基に,欺きに必要とされる高い知性とは何か,進化論的ないし認知発達論的な観点からこれを解説した。さらに,欺きの手法の1 つである嘘について,その神経基盤を研究した知見から,嘘と前頭前野の関わり,欺こうとする意図と「心の理論」との密接な繋がりに関する報告をまとめた。これらの知見に基づき,ポリグラフ検査の研究から,嘘をつくときの自律神経系活動と脳活動の関係性について,事象関連脳電位を用いた実験を行なった。また,ポリグラフ検査における実験パラダイムを応用し,自身がついた嘘に対する認知活動についての検討を行った。結果として,嘘をつくときの脳活動は,欺きを成功させるための生体制御を担うこと,自身がついた嘘を重要な情報として処理する可能性が示唆された。
著者
北村 嘉恵 樋浦 郷子 山本 和行
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
no.126, pp.298-190, 2016

本稿は、中華民国台南県の市立新化国民小学および国立新化高級工業職業学校が所蔵する植民地関係史料の中から学校沿革誌を翻刻し、台湾地域史および帝国日本教育史の基礎史料として集積と共有化をはかるものである。近年台湾では学校史料への関心が高まりを見せ、学校所蔵史料の調査・整理とともに、これらを利用した学校史研究が一定の蓄積をみつつある。日本でも、アーカイブズ学的な関心から、各都道府県に現存する史料の俯瞰的な調査が進みつつある。ただし、悉皆的な調査や比較検討の重要性が指摘されながらも、個別の学校や自治体に視野が限定されがちな傾向は否みがたい。こうした状況をふまえ筆者らは、帝国日本の全域に視野を開きつつ教育史資料の所在調査・整理を段階的・体系的に進めるとともに、地域社会に視点を据えて東アジアの植民地化・脱植民地化の道筋を解明していくことをめざしている。本稿は、その初段階における報告である。This volume is reprinting of historical school documents selected from historical archives of two schools, Municipal Hsinhua elementary school and National Hsinhua industrial vocational school,both located in the present-day in Hsinhua district, Tainan city, Taiwan. In Taiwan, interests in school official documents are rising in recent years. With investigation and arrangement of these documents, studies are being deepened to some extent. In Japan, too, comprehensive investigation on historical documents in each prefecture is being developed fromarchivist standpoints. We hope that publishing these documents will contribute to allowing the histories of Taiwan and the Japanese Empire to be studied in conjunction with the historic and bird-eye view of oneanother. We are currently surveying documents from throughout the Japanese Empire related to the educational history, with the goal of elucidating the processes of colonization and decolonization in East Asia in ways that are rooted in local communities. This volume is the preliminary publication of our larger project. As said above, both schools in this volume were now located in Hsinhua district, Tainan. Hsinhua is in about fifteen kilometers to the northeast from Tainan city area. By seventeenth century, there was a village of indigenous Siraya people, and Tavokan-sha (the community of Siraya people) had also been formed in the present-day Hsinhua district. With increase of Han Chinese immigrants later on, Siraya people was obliged to leave there and emigrate to the foot of mountains. These school archives enable us to understand the multilateral meanings of the elementary and post-elementary education for Hsinhua area.
著者
宮盛 邦友
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.119, pp.177-195, 2013-12-25

The purpose of this paper makes the research theme clear through analysis the important studiesin Japan and Europe about the childhood and the child’s idea. The themes of analysis are follow;The first, the sciences of the development of Morikazu Katsuta in Japan. The second, the sciencesof the child of Jean-Jacques Rousseau in France. The third, the sciences of the children’s history of Philippe Aries and the controversy about it in West. The fourth, the sciences of the child and thedevelopment in global age and its possibilities in America. The childhood and the child’s idea isthe educational thought that demands the child and the development relatively as ‘the discoveryof the child’. The child and the development are the historical concepts having the concept of thestate, the nation and the government since the modern, that is‘the children and the state’. In theglobal age, it is very important that we try to the reconstruction the childhood and the child’s idea and the development’s concept based the children and the state.
著者
浅川 和幸
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.119, pp.27-50, 2013-12-25

現在,道徳教育の教科化を進めるための議論が行われている。この議論の注目すべき点は,「新たな枠組み」で教科化を進めるというところにある。道徳教育の教科化は,生徒指導や進路指導も含めた広い領域で進められていることの一部にあたり,戦後教育の大幅な転換を目的としたものである。本稿は,現在の道徳教育の教科化を進める立場の研究者とは違った問題意識を出発点に,「新たな枠組み」を構想することを目的とした。道徳教育論の書籍の分析と,筆者自身の教職課程の講義「道徳教育論」における実践の分析から「新たな枠組み」提案を越えるための試論を行った。これらの考察から,中等教育の教科の枠組みの組み換えも視野に入れた提案が必要であると考えた。 The government in power took necessary measures to encourage moral education as an officialsubject. However, to be an official subject, the framework of moral education in terms of studentguidance and vocational counseling need to be revised?a significant transition in education afterthe war. This study proposes a new framework. I analyze moral education theory and classroompractices: moral education needs theoretical consideration of a design to completely reformsecondary education.
著者
駒川 智子
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
no.119, pp.139-154, 2013

This study reviews studies on white-collar workers and women's labor in Japan, and exploresthe research approach to women clerks and the processes of care er development.Four important points should be considered when studying women clerks and careerdevelopment. First, substantive case studies should be conducted. Second, researchers shouldanalyze job relocation and promotion of personnel, focusing on skill accumulation through on-thejobtraining (OJT). Third, research must discuss relations between "differences" and "power"in sex and employee status, and not simply report diversification of employment in work places.Fourth, research must introduce a gender perspective into business organizations and institutions,highlighting the various factors that determine the connections among position, treatment, and gender.
著者
小林 由希子 陳 省仁
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
no.106, pp.119-134, 2008

出産前後の「里帰り」は他の先進国には見られないわが国独特の慣習であるが,これまで心理学分野ではほとんど注目されておらず,医療の視点から周産期リスクとして取り上げられ,否定的な側面が強調されてきた。日本では高度成長期,急速な都市化と核家族化が進み,出産場所は自宅から病院施設へ移行した。また,地域近隣との関係は希薄化し,子育ての環境も大きく変化した。その変化の中,否定的見解が示されても里帰り慣行は依然として続いていることから,そこに多くのニーズがあり,「里帰り」は現代も最初期の子育て支援システムとして養育性形成に関わる場となっている。しかし,この子育ての状況が変化し,支えとなっていた地域共同体が崩壊した現代において,里帰りの役割や持つ意味もまた変化してきており,里帰りが現代の子育て支援システムとして機能するためにはいくつかの課題があると思われ,本論文ではそれらの課題について論じる。
著者
佐藤 昭宏
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.117, pp.147-170, 2012-12-26

困難な状況にあるとされる教員を如何に支援するかを考えるにあたり,これまでの先行研究の蓄積の結果,職員室という環境が注目を集めることが多くなってきた。しかしこれまで,職員室を,実際にその場を構成する当事者である教員の立場から検討しようとする研究はほとんど見られなかった。 そうした状況を鑑み,本論文においては,当事者である教員が職員室という場を如何に意味づけているかということを検討することの意義について,まず論じた。そしてその意味づけを考察するにあたっては,教員による「語り」,「言葉」を研究対象とすべきことを,言葉を,それを語る者の「世界の見方」としたBakhtin の言語論,更にMoos による社会的風土概念から示した。 本論文は,今後の職員室研究が如何に進展すべきかを,先行研究のレビューを基に理論的に検討したものである。
著者
宋 美蘭
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.114, pp.77-99, 2011-12-27

【要旨】今日の韓国における学力問題の一つは,教師による,生徒への教育的働きかけが画一的になりやすく,生徒一人ひとりの可能性を引き出すための工夫が必ずしも十分ではない,という結果と,もう一方では,学校組織において主に教師によって行われる教育実践と,親などが意識的・無意識的に行う子どもへの働きかけとが相殺し合って,「負の効果」をもたらしていることにある,と考えられる。 本研究の結果から,一般校,とりわけC校やF校で水準別教育が生徒の学力向上に一定の効果をあげていることは,必ずしも「水準別教育」によるものではなく,その学校・生徒の実情にあう授業改革・工夫,とくに「共同体型授業」によることが明らかになった。平準化政策がもたらした学校内学力格差の縮小には,生徒一人ひとりの諸状況・実態を踏まえた,共同体型授業の推進が有効であり,それが韓国の教育・学力問題の一つを解決する,ひとつの手がかりになると考えられる。
著者
渡邉 仁
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.137, pp.1-30, 2020-12-23

本研究では,国内外の高校における学校適応研究の研究動向を掴み,今後の研究課題を指摘することを目的とした。具体的には,学校適応の実態把握,関連要因,学校適応が他の問題に及ぼす影響を検討した研究を概観した。その結果,学校タイプや学年によって生徒の学校適応の様相が異なり,学校適応の関連要因は多岐にわたっていることが示唆されていた。また,在学中の学校適応が卒業後にまで影響していることが指摘されていた。社会的背景に困難を抱える生徒が多い非進学校では,生徒は入学してすぐに学校適応問題に直面し,教師の働きかけによって適応することもあれば,留年や中退することもある。しかし,これまでの学校適応研究では教師側の視点や生徒の社会的背景,留年や中退等は検討されていない。したがって,今後は高校の多様性や学年差を考慮し,留年や中退も視野に入れ,教師側の視点や生徒の社会的背景をみる観点から検討する必要性が示唆された。
著者
藤川 奈月
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.138, pp.329-357, 2021-06-25

現在,「生きづらさ」という言葉が包括的で多義性を持つ言葉として様々な人の間で使われている。にもかかわらず,専門家による「生きづらさ」の定義付けや理論構築などといった「生きづらさ」探究活動には,多種多様な「生きづらさ」のうちの一部しか反映されていない。本論文は,この現象の構造とそれを乗り越える方途の検討においてA. W. グールドナーの理論を援用することの意義と限界を探るものである。グールドナーの理論を再読し整理した結果,先述の現象の構造は,グールドナーの下部構造論の援用,すなわち,専門家とそれを取り巻く社会や人々との間の相互作用の検討によって説明可能となることが明らかになった。先述の現象を乗り越えるための方途については,グールドナーのRational Discourse論,特に,「知的対話」「限界の自覚」「非権威的理性」「明識としての知」がその一助となるものの,グールドナーの理論だけでは限界もあるということが明らかになった。