著者
小山 誠南
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.138, pp.275-291, 2021-06-25

本稿はSébastien Castellion, De l'art de douter et de croire, d'ignorer et de savoir(traduit du latin par Charles Baudouin, éd. Jeheber, Genève-Paris, 1953)の改訂版(réédition Carrière-sous-Poissy, Éditions La Cause, 1996)の125頁から144頁を翻訳したものである。なお翻訳にあたっては,E. F. ヒルシュによる本書のラテン語原文の校訂版,Castellio, S., De arte dubitandi et confidendi, ignorandi et sciendi(Leiden, E. J. Brill, 1981)も参照し,鍵となる語彙についてはラテン語を付記した。 今回訳出したのは第2巻の冒頭,第1章から第6章である。ここではカステリヨンの持つ三位一体論と信仰論が展開されており,彼の思想を知る上で非常に興味深い議論がなされている。なお【翻訳】における注記は全て原注に従っている。
著者
新藤 こずえ
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.138, pp.119-136, 2021-06-25

近年,児童養護施設で暮らす障害のある子どもが増加している。本稿では,その背景を概観したうえで,従来,児童養護施設で取り組まれてきた自立支援のあり方を問い直すものとして,施設における障害のある子どもの進路支援に焦点をあてる。施設職員を対象としたインタビュー調査の結果,進路支援の前提として,学齢期を通して子ども自身の障害受容を促す支援が行われているが,高校進学の段階では,普通高校よりも特別支援学校高等部への進学を後押しする働きかけが行われていることが明らかになった。しかし,障害のある子どもに対するこうした進路支援を含む自立支援は,子どもたちが望む「ふつう」の生活をあきらめさせることにもつながっている。他方で,障害のある子どもに対する進路支援は,ライフコースを通じてケアやサポートを利用しながら生きる,つまり依存しながら自立する可能性を広げる契機にもなっていると考えられる。
著者
孫 詩彧
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.137, pp.171-191, 2020-12-23

共働き夫妻の家事育児は遂行の時間や頻度から見て分担が進んでいるものの,妻に偏っている点で夫片働き家庭と共通している。これを受けて役割分担の研究は共働き夫妻に限定して規定要因の再検討を行った。一方,子どもの誕生と成長につれて夫妻間の役割分担が硬直化し,調整可能性が制限されることの議論がほぼなされていない。本研究は夫妻双方から集めたペアデータを用い,育休の取得と利用を手がかりに分析した。その結果,調整可能性の内実として「互換可能性」と「代替可能性」を明らかにした。妻のみ育休を取る場合,夫妻間の交渉が抑えられて役割の互換をしなくなり,夫の家事育児遂行が限られた結果,夫妻間の代替も難しくなる。役割分担の調整可能性に寄与する観点から,男性の育休取得率を上げるよりも,取得と利用における夫妻間の差に注目する必要がある。夫妻が共に育休を取る,もしくは取らなくても子育てができる環境が重要である。
著者
亀野 淳
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.137, pp.259-270, 2020-12-23

本稿においては,インターンシップやアルバイトを就職希望者(学生)の能力把握(企業側の視点)や企業・業種の実情把握(学生側の視点)などに利用するという直接的効果に着目し,企業に対するアンケート調査を実施した。その結果,①新規学卒者の採用にあたっては,能力把握の方法として「面接」が最も重要視されており,インターンシップやアルバイトは少ないが,これらの方法の評価としては,面接よりもインターンシップ経験の方がその有効性を企業が認識していること,②こうした有効性の認識もあり,多くの企業が採用目的でインターンシップを実施しているが,当初の目的を十分に達成しているとは必ずしもいえないこと,③平均すると,企業は新卒採用の2.4倍程度の学生をインターンシップ学生として受け入れ,そのうち,6.4%程度を実際に採用している。新卒採用者全体でみると,約7人に1人をインターンシップ経由で採用していることなどが明らかになった。
著者
山田 千春
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.120, pp.179-198, 2014-06-30

全専各連は,専修学校が学校教育法第1 条に規定されていないために起こる取り扱いでの格差を改善しようと,専修学校の1 条校化運動を推進してきた。それに関する議論は,専門学校を中心に行われているので,本稿では,高等専修学校に焦点を当て,筆者が北海道の高等専修学校の管理職に行った聞き取り調査をもとに,1 条校化をめぐる論点の整理を試みた。調査の結果,小規模校では,資格のある教員の確保や施設面での充実を義務付けられる点から専修学校のままを望んでいた。一方,中規模校では,教員数の増加や教育施設のより一層の充実を期待し,1 条校化を望んでいた。それらを踏まえて,高等専修学校の1 条校化をめぐる論点として,1,全専各連の1 条校化の要望と現場との間に意見のギャップがある点,2,格差の改善を優先するのか,教育における自由度を優先するかという点,3,教員資格の基準について,4,学園内における他の学校との関係性の問題,以上4 つの論点を見出すことができた。
著者
平野 郁子
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.132, pp.45-57, 2018-08-30

昨今,自閉症スペクトラム者への自己理解支援が重視されているが,当事者にとっての自己理解の意義や支援方法が十分に整理されているとは言い難い。そこで本稿では文献検討により自己理解支援の課題を整理した。自己理解には多様な意味があるが,支援は障害特性に焦点化しやすく,問題の原因を脱文脈的に本人に帰属しやすい問題があり,トータルな個人としての自己を捉える必要があると考えられた。一方,当事者の語りを重視するナラティヴアプローチや当事者研究では,応答的な語りが当事者の自己の回復や生きにくさの軽減につながることが示唆されている。ここからは当事者性を広義に捉えれば立場の違う同士であっても対話を通じて自己理解が展開される可能性が考えられる。しかし,当事者にとっての自己理解の意義や立場の異なる者とのかかわりのなかでどのように自己理解が紡がれるのかは明らかではなく,さらなる質的検討が必要である。
著者
魚住 智広
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.133, pp.1-22, 2018-12-25

本稿は,運動部活動が対外試合に参加するための条件に関する社会学的分析である。先行研究は,大会方式の見直しが将来の運動部活動にとって重要であると論じてきた。しかし,各方式の現状を検証せずに大会の形式的な見直しを求める議論には慎重にならざるをえない。 そこで本稿は,6つの高校サッカー大会を対象として,それぞれの大会がどのような学校の生徒にどれほど試合出場機会を提供しているかについて整理した。その結果,先行研究で推奨されてきたリーグ戦方式の大会は参加率が非常に低いことが明らかになった。また,大会への参加障壁一つひとつをクリアしようとしても,複数の障壁が組み合わさることで生じる参加者への負担が非常に大きく,大会参加を断念せざるをえない場合があった。よって今後は大会方式や大会規定を形式的に変更するだけでなく,チーム状況に応じた配慮やチーム同士の非対称的な関係への移行が必要であることが明らかになった。