著者
金﨑 茂樹
出版者
大阪産業大学学会
雑誌
大阪産業大学論集. 人文・社会科学編 = Journal of Osaka Sangyo University (ISSN:18825966)
巻号頁・発行日
no.37, pp.55-71, 2019

本稿の関心はミイラを題材にした小説にある。なかでもイギリスがエジプトを保護国化していた時期は,後述のとおり,一般的なイメージとして流通している「復讐するミイラ」と異なった美しい女性ミイラが多く登場する。本稿はとりわけ女性ミイラとのラブ・ロマンスを扱った作品を中心に取り上げて,女性ミイラ・男性主人公・世界観などの分析を試みた。論の性格上,有名作品ひとつを詳しく検討するというより,マイナーなものも含む十編以上のテクストの言及や紹介をしながらその都度見出されたテーマを吟味し,そのテーマに関連する別作品を引き寄せてくるといった累積的な体裁をとっている。そのため論旨が見えにくくなっている恐れがあるので,その弊をいくらかでも救うために以下におおまかな流れを記しておく。まず予備的な考察として,十九〜二十世紀転換期のミイラ受容に関する歴史的背景を見たのち,初期のミイラ作品に関していくつか略述した。そのうち,女性ミイラの登場するテオフィル・ゴーチエの「ミイラの足」を手がかりに,後続作品に進みながら,「おとぎ話」「時間とエジプト問題」「視線」などのテーマについて順次瞥見し,最後に当時の人々にとってどのような魅力が恋愛対象としての女性ミイラにあったのかを論じた。