著者
真鍋 良幸 李 昊晟 徳永 健斗 Sianturi Julinton 寺尾 尚子 高松 真二 種村 匡弘 三善 英知 深瀬 浩一
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集 58 (ISSN:24331856)
巻号頁・発行日
pp.Oral27, 2016 (Released:2019-10-01)

a-galエピトープ(Fig.1)は,多くの哺乳類で広く発現しているものの,ヒトではその合成酵素であるa1,3galactosyltransferse(a1,3GT)が変異を受け,活性を持たず,この糖鎖構造を持たない.代わりにヒトは,抗a-gal抗体(抗Gal抗体)を持ち,その量はヒトの自然抗体の中で最も多い.ブタなどの異種臓器には大量のa-galが発現しており,ブタ‐ヒト間の臓器移植でみられる超急性拒絶反応は,a-galと抗Gal抗体の免疫反応に起因する.我々は,この激しい免疫反応を利用した効果的ながん免疫療法の開発を目指して研究を行った.がんの免疫療法は手術,放射線療法,化学療法の3大療法に続く第4の治療と期待され,副作用が少なく,転移や再発を抑制する効果的な治療となる可能性を秘めているものの,未だ標準的治療としては確立されていない.この要因としては,全身状態不良のがん患者では,免疫機能が低下しているため腫瘍抗原に対する抗原提示能が低いこと,がんの持つ免疫回避機構のために免疫系が十分に機能しないこと,などが考えられる.本研究では,a-galエピトープを化学合成し,これをアジュバント(抗原性補助剤)として利用したがんワクチン療法の開発に取り組んだ.また,がん細胞をa-galで標識し,がん細胞特異的に超急性拒絶反応を引き起こす新しいがん免疫療法の開発も検討した.・a-galエピトープの効率合成 a-galの合成に関しては,通常の化学合成に加え,固相での合成や,酵素を用いた合成など複数の報告がある1.本研究では,a-galの量的供給を目的として新規の合成ルートを検討した.まず,チオ糖1と2を用いたグリコシル化を検討した(Table 1).グリコシル化において電子供与性の保護基で保護したドナー(アームドドナー)は電子吸引性の保護基で保護したドナー(ディスアームドドナー)よりも反応性が高い.そこで,ディスアームドドナー2存在下でアームドドナー1を選択的に活性化して,2糖3を合成し,得られたチオ糖3をそのまま続くグリコシル化に用いることで,効率的な糖鎖骨格の構築が可能となると考えた.種々の活性化剤を検討したところ,NIS,TfOHを用いたときに最も良好な結果を与え(entry 1-4),1を小過剰に用いることで収率が向上し,目的の3を82%の収率で得ることができた(entry 5,6).一方で,本反応はスケールアップにともない収率が低下した(57%, entry 6).そこで,本反応にマイクロフロー系を適用した.マイクロフロー系では,反応溶液をポンプにより流路に送液し,マイクロメートルオーダーの反応場を持つリアクターで混合し,反応を行う.これにより,効率的な混合や精密な温度制御が可能となり,アームドドナーである1の活性化の選択性が向上することに加え,生成した3を系外に取り出すことで,過剰反応を抑制できると考えた.さらに,本系では送液時間を延長することで,完全に同じ条件でのスケールアップが可能である.マイクロフロー系でのグリコシル化はFig. 2に示す装置を用いて行った.マイクロフロー系における反応条件の検討にあたり,基質1,2の消費量を最小限に抑えるために,HPLCで用いられるレオダインインジェクターを系内に(View PDFfor the rest of the abstract.)
著者
大類 洋
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集 58 (ISSN:24331856)
巻号頁・発行日
pp.Oral31, 2016 (Released:2019-10-01)

HIV感染(エイズ)は作用機序が異なる複数の薬を併用するHAARTが開発され致死から臨床的に処置が可能な長期感染症となっている。しかし、現在のHAARTには依然として耐性HIVの発現や、毎日飲まねばならない複数の薬の副作用などの問題点があり、より優れた薬剤の開発が望まれている。演者は耐性HIVを発現させないヌクレオシド薬の創製を考えている間に、ウイルスが薬剤耐性を獲得する突然変異が抗ウイルス活性修飾ヌクレオシド創製の鍵であることに気付き “抗ウイルス活性修飾ヌクレオシド創製の為の基本概念” を提出した。更に、HAARTの問題点を解決出来る修飾ヌクレオシドの分子設計の為に4つの作業仮説を立てその検証する研究を行い非常に優れた抗HIV活性を持つEFdA(4’-ethynyl-2-fluoro-2’-deoxyadenosine、表1)を創製した1)ので報告させて頂く。 抗ウイルス活性修飾ヌクレオシド創製の為の基本概念2)ウイルスは突然変異して薬剤耐性を獲得するので“ウイルス感染症の治療は難しい!”と考えられている。しかし、演者は“突然変異は優れた抗ウイルス活性を持つ修飾ヌクレオシド薬創製の為にある事象である”と考えている。即ち、“突然変異とはウイルスがA:T,G:Cのペアリングを無視し設計されていないヌクレオシドを取り込んで遺伝子を変えることである。これはウイルスの核酸合成酵素の基質選択性が非常に甘いことを示している。一方、人はその様なことをしない。これは人の核酸合成酵素の基質選択性が非常に厳格であることを示している。この基質選択性の違いを利用すれば、ウイルスの核酸合成酵素の基質となり(ウイルスに活性)、人の核酸合成酵素の基質とならない(人には低毒性)修飾ヌクレオシドの創製が可能である。” HAARTの問題点を解決する為の4つの作業仮説1)① ヌクレオシド薬に耐性HIVを発現させない方法 図1現在臨床に用いられている逆転写酵素(RT)阻害ヌクレオシド薬は全て2’,3’-dideoxynunucleoside(ddN)誘導体であり、“ddN構造はヌクレオシドがRTのチェインーターミネーター(CT)になる為に必須である”と考えられていた。しかし、全てのddN薬に短期間で容易に耐性HIVが発現した。演者は“耐性とはHIVがddNを生理的2’-deoxunucleoside(dN)と識別しddNをRTの活性中心に取り込まない能力を獲得したことである”と考えた。dNとddNの構造の違いは3’-OHを持つか否かであるので “HIVは3’-OHの有無で両者を識別している”と考えた。それ故、耐性HIVを発現させない修飾ヌクレオシドは“HIVによってdNと識別されないように3’-OHを持たなければならない、しかも3’-OHを持ちながらRTのCTと成らなければならない”と考えた。その目的を達成出来るヌクレオシドとして4’-位に置換基を持つ4‘-substituted- 2-deoxynucleoside(4’SdN)を設計した(図1)。その理由は“4’-位に置換基を導入すると3’-OHは反応性が非常に低いネオペンチル型2級水酸基となるのでこのOH基は認識には使えてもRTによるウイルスのDNA鎖延長反応には使えない”と考えた為である。しかし、RTが4’SdNを基質として受け入れて4’SdN(View PDFfor the rest of the abstract.)