著者
深瀬 浩一 真鍋 良幸
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

3糖構造α-Galエピトープは,多くの哺乳類で広く発現しているものの,ヒトはこの糖鎖構造を持たない.その代わりに,ヒトは大量の抗Gal抗体を持つ.本研究では,化学合成したα-Galエピトープとがん抗体を複合化させることで,がん細胞を特異的にα-Gal標識し,超急性拒絶反応を引き起こすことにより,がん細胞を排除する全く新しいがん免疫療法の開発を目指した.まず,α-Galの効率的な化学合成を行った.さらに,合成したα-Galをリンパ腫細胞に発現するCD20に対する抗体と複合化し,全く新しい抗体薬物複合体の調製に成功した.また,α-Galのアジュバント(抗原性補強剤)としての利用も検討した.
著者
真鍋 良幸 李 昊晟 徳永 健斗 Sianturi Julinton 寺尾 尚子 高松 真二 種村 匡弘 三善 英知 深瀬 浩一
出版者
天然有機化合物討論会実行委員会
雑誌
天然有機化合物討論会講演要旨集 58 (ISSN:24331856)
巻号頁・発行日
pp.Oral27, 2016 (Released:2019-10-01)

a-galエピトープ(Fig.1)は,多くの哺乳類で広く発現しているものの,ヒトではその合成酵素であるa1,3galactosyltransferse(a1,3GT)が変異を受け,活性を持たず,この糖鎖構造を持たない.代わりにヒトは,抗a-gal抗体(抗Gal抗体)を持ち,その量はヒトの自然抗体の中で最も多い.ブタなどの異種臓器には大量のa-galが発現しており,ブタ‐ヒト間の臓器移植でみられる超急性拒絶反応は,a-galと抗Gal抗体の免疫反応に起因する.我々は,この激しい免疫反応を利用した効果的ながん免疫療法の開発を目指して研究を行った.がんの免疫療法は手術,放射線療法,化学療法の3大療法に続く第4の治療と期待され,副作用が少なく,転移や再発を抑制する効果的な治療となる可能性を秘めているものの,未だ標準的治療としては確立されていない.この要因としては,全身状態不良のがん患者では,免疫機能が低下しているため腫瘍抗原に対する抗原提示能が低いこと,がんの持つ免疫回避機構のために免疫系が十分に機能しないこと,などが考えられる.本研究では,a-galエピトープを化学合成し,これをアジュバント(抗原性補助剤)として利用したがんワクチン療法の開発に取り組んだ.また,がん細胞をa-galで標識し,がん細胞特異的に超急性拒絶反応を引き起こす新しいがん免疫療法の開発も検討した.・a-galエピトープの効率合成 a-galの合成に関しては,通常の化学合成に加え,固相での合成や,酵素を用いた合成など複数の報告がある1.本研究では,a-galの量的供給を目的として新規の合成ルートを検討した.まず,チオ糖1と2を用いたグリコシル化を検討した(Table 1).グリコシル化において電子供与性の保護基で保護したドナー(アームドドナー)は電子吸引性の保護基で保護したドナー(ディスアームドドナー)よりも反応性が高い.そこで,ディスアームドドナー2存在下でアームドドナー1を選択的に活性化して,2糖3を合成し,得られたチオ糖3をそのまま続くグリコシル化に用いることで,効率的な糖鎖骨格の構築が可能となると考えた.種々の活性化剤を検討したところ,NIS,TfOHを用いたときに最も良好な結果を与え(entry 1-4),1を小過剰に用いることで収率が向上し,目的の3を82%の収率で得ることができた(entry 5,6).一方で,本反応はスケールアップにともない収率が低下した(57%, entry 6).そこで,本反応にマイクロフロー系を適用した.マイクロフロー系では,反応溶液をポンプにより流路に送液し,マイクロメートルオーダーの反応場を持つリアクターで混合し,反応を行う.これにより,効率的な混合や精密な温度制御が可能となり,アームドドナーである1の活性化の選択性が向上することに加え,生成した3を系外に取り出すことで,過剰反応を抑制できると考えた.さらに,本系では送液時間を延長することで,完全に同じ条件でのスケールアップが可能である.マイクロフロー系でのグリコシル化はFig. 2に示す装置を用いて行った.マイクロフロー系における反応条件の検討にあたり,基質1,2の消費量を最小限に抑えるために,HPLCで用いられるレオダインインジェクターを系内に(View PDFfor the rest of the abstract.)
著者
深瀬 浩一
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.50, no.11, pp.1091-1095, 2014 (Released:2016-09-30)
参考文献数
16

自然免疫研究は,細菌由来複合糖質研究から始まった.まず,特定の分子構造が免疫増強作用を示すことが明らかにされ,続いて様々なセンサー受容体群の発見につながった.細菌由来複合糖質の多くは複雑構造の高分子であり,天然物には他の免疫増強物質のきょう雑が避けられない.我々は,活性本体ならびにその受容体を確定するために,1)合成法の確立,2)均一な化合物の十分量の供給,3)合成化合物の生物機能研究への提供,という研究戦略に基づいて,細菌由来複合糖質の自然免疫機能の解析研究を実施した.微生物による免疫増強作用は,細菌感染によってがんが治癒,縮小する現象として300年以上前から報告されていた.19世紀の終わりからこの現象に科学の目が当てられ,1893年にColeyは細菌を用いた世界で最初のがんの免疫療法を実施した.その後様々な細菌による免疫活性化作用が報告され,現在この現象は自然免疫の働きによるものと理解されている.自然免疫は,種々のセンサー受容体(病原体認識受容体,パターン認識受容体)により,細菌,ウイルス,カビなどの病原体由来の複合糖質,グリカン鎖,リポタンパク質,DNA,RNA,鞭毛タンパク質フラジェリンなど,病原体に特徴的な分子を認識して生体防御にあたるシステムで,抗原-抗体反応や腫瘍免疫などの獲得免疫の誘導にも重要な働きをしている.また自然免疫は,アレルギーや自己免疫疾患,慢性炎症やがんとも深くかかわっていることから,大きな注目を集めている.我々は,リポ多糖や細菌細胞壁ペプチドグリカンなどの細菌由来複合糖質を主な対象として,それらの合成研究と合成化合物を用いた機能解析研究を実施したので,以下に紹介する.
著者
深瀬 浩一 藤本 ゆかり
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

糖鎖の機能を明確な物質的、構造的基礎に立って明らかにすることを目指し、固相法と固相-液相ハイブリッド法による糖鎖の迅速かつ効率的な合成法について検討した。4-アジド-3-クロロベンジル(ClAzb)基を持つ糖鎖を固相合成した後、アジド基と固相担持ホスフィン樹脂の反応により、ClAzb基を持つ目的化合物のみを釣り上げ、続いてDDQ酸化によって目的物を切り出す手法を用いてエリシター5糖の合成を行った。アスパラギン結合型糖タンパク質糖鎖の固相合成に向けた基礎的な検討を行い、(Bu_3Sn)_2を用いたラジカル反応によりトリクロロエトキシカルボニル(Troc)基を固相上で効率的に切断する方法を開発した。また固相上でN-Troc基の隣接基関与を利用した立体選択的グルコサミニル化を行うことに成功した。4,6-O-ベンジリデン保護マンノシルN-フェニルトリフルオロアセトイミデートを糖供与体として、TMSOTfを触媒として用いるβ-選択的マンノシル化法を見出した(α:β=1:9)。またN-フタロイル保護シアル酸のフェニルトリフルオロアセトイミデートを供与体に用いるα-選択的なシアリル化法も見出した。われわれは、タグとタグ認識分子の特異的なアフィニティーを利用してタグの結合した化合物を分離する手法を開発し、Synthesis based on affnity separation(SAS)と名付けた。本研究ではポダンド型エーテルをタグに用い、タグの結合した目的糖鎖を固相担持アンモニウムイオンに選択的に吸着させる方法を確立した。この手法を用いてルイスX糖鎖を含む10数種のオリゴ糖ライブラリーの合成を行った。免疫増強活性複合糖質リポ多糖ならびにペプチドグリカンについて、様々な部分構造や類縁体の合成を行い、それらの生物活性試験により、機能の解析ならびに生体の蛋白因子の相互作用について調べた。