著者
福田 千紘
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨 2021年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
巻号頁・発行日
pp.56, 2021 (Released:2021-08-07)

宝石”ラリマー”はペクトライト (ソーダ珪灰石)からなる宝石で主に青~青緑半透明の物が宝石として利用されている。本種は単一の結晶ではなく繊維状の結晶集合体からなりマクロ構造が海中の波間のような独特の外観を呈する物の人気が高いようである。ペクトライトは 1828年に最初に記載されており模式地はイタリアである。化学組成は理想式でNaCa2Si3O8(OH) であり珪灰石族の鉱物である。2017年に著者も属する研究グループが愛媛県岩城島より新鉱物村上石を記載した。村上石は理想式 Ca2LiSi3O8(OH)とペクトライトの Naを Liに置換した組成を持つ。いくつかの産地のペクトライトは化学組成が報告されており0.数 wt%の Li2Oを含んでいる。よって村上石成分がいくらか含有されているものと考えられる。本研究では宝石用として流通しているドミニカ共和国産の青色系ペクトライトの軽元素を含む組成を分析しどの程度村上石成分が含まれるかを検討した。使用した試料はビーズとして市販されていたラリマーである。 その中よりカラーバリエーションやマクロ構造の異なるものを選別して組成分析を行った。 Ca, Na, Siは XRFを用い、 Li, H(OH)は LIBSを用いて測定し検量線法で定量した。 Ca, Na, Siは標準試料として NIST-612, 単体 Si, 珪灰石, ヒスイ輝石を用いた。 Liは NIST-610, 612, L-1~L-5硼珪酸ガラスを標準試料とした。 Hは TGA-DTAによる計測データより吸着水は 100℃程度の加熱でも除去できることがわかっており加熱後直ちに不活性ガスを充填することで検出された H全てが OHと見なしても問題ないことから全量 OHとして計算した。
著者
中嶋 彩乃 古屋 正貴
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨 2021年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
巻号頁・発行日
pp.57, 2021 (Released:2021-08-07)
参考文献数
1

ラベンダー・ジェダイトについてはPinkish Lavenderと表現されるものも報告されているが(Lu, 2012)、主たる色がピンクの天然のジェダイトについての報告は少ない。天然のピンク・ジェダイトと思われるものを検査する機会を得たので、その宝石学的特徴やマンガンによる色について報告したい。10年ほど前にミャンマー産という、上記の写真のような円盤状のルース(現地名:壁)3点、カボションカット6点のピンク・ジェダイトを入手することが出来た。ピンクのジェダイトには有色樹脂によって着色されたものも多く流通し、当該石についても同様の処理が疑われた。しかし、着色の特徴となるような、色素の色溜まりや鮮やかなオレンジの蛍光はなく、蛍光もラベンダー・ジェダイトで見られる微かなオレンジものもだけだった。また、FT-IRの透過検査でもジェダイトの着色にしばしば用いられる樹脂による吸収は見られず、ワックスの吸収があるか、それすら見られないものであった。紫外可視分光スペクトルでも、着色による500~550nmの強い吸収は見られず、 540nm前後をピークとする弱い吸収が見られたのみだった。ラベンダー・ジェダイトでは同様のピークが 570nm付近がピークであり、ピーク波長は異なるが、似たような吸収が確認された。ピンク・ジェダイトといっても白い脈の部分もあり、白色部分とピンク部分の微量元素を比較したところ、蛍光 X線成分分析では主だった差は確認されなかった。しかし、 ICP-MSでさらに微量な成分を調べると、ピンク部分からは 20~40ppmの Mnが検出されたが、白色部分では 5ppm以下であった。その他にもラベンダー・ジェダイトとの比較では Feが少ない傾向が見られた。このため、ピンク色は微量なMnによるものでかつ Feが少ないことによるものと考えられた。