著者
中島 彩乃 古屋 正貴
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨 平成23年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
巻号頁・発行日
pp.2, 2011 (Released:2012-03-01)
参考文献数
8

近年ベトナムなどから産出するブルースピネルに、以前のブルースピネルのような暗い青ではなく、変成岩起源のサファイアのように鮮やかな明るい青のものが見られるようになった。市場では、その色の濃いものはコバルトスピネルや、パステルカラーから薄いカラーチェンジスピネルの名称で販売されているようである。(ツーソン2011) 青い天然のスピネルは、1980年代に一部コバルト着色であるものが含まれることが発見され、それまでのコバルトは天然石の色原因とはならないという常識から外れるもので驚きを持って受け入れられた。(Fryer, 1982) これらいわゆるコバルトブルースピネルの着色原因とその色について調査を行った。 分光器を使う伝統的な宝石学としてGem Testingを見ると、ブルースピネルはコバルト着色のものと、鉄着色のものがあることが示され、その違いは基本的にコバルト着色のものはベルヌイの合成石の特徴であり、鉄着色は天然石の特徴として示され、鉄着色の天然石は459nmの強く大きな吸収バンドの他、555nm、592nm、632nmの3つの吸収を特徴とし、コバルト着色の合成石は540nm、580nm、635nmの3つの吸収バンドがあるとされている。また、分光光度計を用いた研究では先のものに加え、天然の鉄+コバルトで着色されたものの吸収ピークが示され、429.5nm、434nm、460nm、510nm、552nm、559nmが鉄による吸収、575nm、595nm、622nmがコバルトが影響したものとして示された。(Shigley, 1984) また黄色~赤色の3つの吸収については、鉄による555nm、590nm、635nmの吸収は、コバルトによる550nm、580nm、625nmと非常に似ているとした研究もあった。(Kitawaki, 2002)ブルースピネルの分光パターンにはこのような詳細な研究が行われてきた。 このようにこれまでも研究されてきた吸収のパターンを踏まえて、タンザニア、スリランカ、ベトナム、およびベルヌイ法合成のブルースピネル、44石の分光スペクトル、蛍光X線成分分析、およびLA-ICP-MSによる成分分析の着色元素の含有率と比較・調査し、分光スペクトルの特徴と着色原因の特徴との関係を調べた。
著者
高 興和 古屋 正貴 畠 健一
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.37, 2015

紫色の美しい花、ジャマランカが咲き誇るタンザニアの大地の地下1000メートルに美しい紫味を帯びたタンザナイトが眠っている。ジャマランカの花言葉は「栄光」と「名誉」。1960年後半に発見されたタンザニアを代表する新しい宝石タンザナイトにいまだ正式な宝石言葉はない。20世紀を代表する宝石の1つになったタンザナイトの宝石言葉に、「栄光」と「名誉」を贈りたい。タンザナイトの命名通り、現在タンザナイトはタンザニアのみ産出し、詳しくはアルーシャ地方のメラニヒルズのみが確認されている。1971年タンザニア政府によりメラニヒルズ鉱山は一旦国有化されたが、1990年、政府系、民間系の4つのブロックに分けられ、現在各ブロックごとに採掘が稼働している。<br> Aブロック) 政府系 Kirimanjaro Mines Limited<br> Bブロック) 民間系 小規模業者 オーナー数約200名<br> Cブロック) 政府系 Tanzanait one<br> Dブロック) 民間系 オーナー数 約300名<br> 今回、BブロックのELISARIA MSUYA MAININNG社の協力のもと地下500メートルの採掘現場より入手した原石を中心に研磨、インクルージョン観察、その後、3時間ずつ、100&deg;C、200&deg;C、300&deg;C、350&deg;C、400&deg;C、450&deg;C、500&deg;Cの加熱処理を実施、分光スペクトルの処理前、処理後の検査結果を得た。今回の現地調査の目的は、通常低温加熱されているタンザナイトについて、確かなサンプル原石を入手すること。そして、今回はBブロックに絞り、品質をジェム・クオリティ、ジュエリー・クオリティ、アクセサリー・クオリティの3段階に分け、出現率を調査することである。宝石の価格相場は宝石の品質を評価し、その出現率と需要で決まる。<br> 今回、タンザナイトのBブロックに絞り込み、鉱山の現地調査を実施。その原産地状況を報告する。
著者
古屋 正貴 剱持 苗子 檀上 圭司 ウンア ジョン
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨 平成22年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
巻号頁・発行日
pp.8, 2010 (Released:2011-03-03)

北海道の鉱山から産出したロードクロサイトは、日本から産出する数少ない宝石の一つである。北海道古平郡古平町稲倉石鉱山はマンガンの採掘を目的に昭和59年まで稼働していた。ロードクロサイトはそのマンガン鉱石の副産物として産出していたものであった。しかし、海外からのマンガンの鉱石の輸入に押され、鉱山は閉山してしまい、ロードクロサイトの産出もなくなってしまった。現在、マンガン鉱山が稼働していた頃に産出されたものが流通している状況である。 一般にロードクロサイトには、ファセットカットにもされる透明石と、カボションカットにされる半透明石がある。前者では世界最大の結晶を産出するアメリカのコロラド産が有名であり、後者ではインカ・ローズの別名に用いられているようにアルゼンチン産が有名である。これらを含め、中国、ペルー、ロシア、ブラジル、南アフリカ産のものと北海道産のロードクロサイトを比較した。 MnCO3を成分とするロードクロサイトは、透明度の高いものであると蛍光X線成分分析機ではMnOしか検出されないものもあるが、鉄、カルシウム、マグネシウム、亜鉛などの不純物が検出されるものもある。また、北海道のものを始め、半透明のものでは不純物も多く検出される。それら不純物の含有量や割合を元に産地ごとの特性を調べてみた結果、北海道産について他の産地より、マンガン量が少ない、鉄分が多い、亜鉛は少なく、マグネシウムは少なく、カルシウムは多いなどの特徴が見られた。 また、紫外・可視分光スペクトルや、FT-IRなどのスペクトルにも特徴が見られたので、それについても合わせて報告したい。
著者
中嶋 彩乃 古屋 正貴
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨 平成30年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
巻号頁・発行日
pp.19, 2018 (Released:2018-06-24)
参考文献数
1

様々な変色性を示すガーネットがあり、それらの分光特性と化学組成の分析を行った。1998 年にマダガスカル南部の Bekely から発見されたガーネットは、変種としてはパイロープ-スペサルティン・ガーネット(マラヤ)に分類され、 D65 光源下で帯緑青色~青緑を示し、 A 光源下では赤色になる。その色は含有される V3+によるものである。右図の 1)は Bekely 産の青緑色(D65)と赤色(A)を示すもので 1.3%(以下すべて蛍光 X 線分析による酸化物としての重量比)の V を含み、 Cr を 0.16%しか含まないものである。一方、 2)はスリランカ産の紫色(D65)と赤色(A)と弱い変色性を示すもので、ガーネットの固溶体比率はほぼ同じだが、 V を 0.10%とほとんど含まず、 Cr を 0.53%と多く含むものである。ともに 570nm 付近をピークとする吸収を持つために変色性が起こり、 1)の方が青~緑色域の透過が多く、赤色域の透過が少ないために色が違っている。3)は南アフリカやスリランカなどを代表的な産地とする帯緑褐色(D65)と赤色(A)を示すもので 1)のタイプと同じく、 0.3%の少ない V3+によって 570nm に弱い吸収のあり、それによって弱い変色性を示す。ガーネットの変種は、同じくパイロープ-スペサルティン・ガーネットであり、 V の含有量が少ないために緑色域の吸収も弱く、 D65 では褐色になっている。また、 460,483nm の Mn2+による吸収も見られる。4)はタンザニアやケニア Umba 渓谷などから産出するロードライト・ガーネットで、アメリカ、ヨーロッパなどでピーチカラー(黄桃)と呼ばれる褐色(D65)からピンク (A)に変わる極めて弱い変色性を示すものである。これらは V を 0.2%以下とほとんど含まないが、 Fe2+による 570nm を始め 506、 526、 696nm の吸収が見られる。しかし、 Mn2+による青色域の吸収も弱く、青色域の透過が多いため、 570~506nm 付近が吸収の谷となり、わずかな変色性が見られるものである。これらはすべて 570nm 付近の吸収が透過の谷となり、変色性の原因となっている。また、 Bekely タイプの中には V を多く含むことで吸収帯が広がり、 5)のように紫~青色域のみが透過するスペクトルになり、 D65 光源では帯緑青色を示すものもあり、これらは以前にはないとされていた青色のガーネットとなる。
著者
中嶋 彩乃 古屋 正貴
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨 2022年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
巻号頁・発行日
pp.13, 2022 (Released:2022-07-08)
参考文献数
2

昨年の宝石学会でミャンマー産のピンク・ジェダイトの着色原因について調査を行った。以前のミャンマー産だけでなく、国石でもある日本産でもピンクのジェダイトはないかと考えた。しかし、市場で糸魚川産のピンク・ジェダイト(ひすい)として販売されているものも見られたが、実際それらは翡翠ではなく着色された処理石を除くと、チューライトかクリノチューライトであり、ジェダイトは見られなかった。文献ではこれらのピンク色の石について、ピンクのゾイサイトであるチューライトとしているものもあれば、ピンクのクリノゾイサイトであるクリノチューライトと記載されているものも見られた。そこで、市場で販売されている糸魚川近郊から産出したとされるピンク色の石を5石ほどラマン分光や FT-IR の検査を行ったところ、1石はチューライトで、4石はクリノチューライトであった。FT-IR では反射のスペクトルを計測すると、ゾイサイトとクリノゾイサイトはかなり近いスペクトルだが、 1046cm-1の付近のピークに違いがあり、今回のチューライト、クリノチューライトでも同様に違いが確認された。また、直方晶系のゾイサイトと単斜晶系のクリノゾイサイトは、結晶系の違いによる分類であるが、 G. Funz(1992)によると、それはAl3+と置換した Fe3+が多くなると、クリノゾイサイトになると説明されていた。今回のサンプルは少ないながらも、蛍光 X 線による成分分析で Fe2O3 がチューライトのものでは1.17wt%であるのに対して、クリノチューライトのものは 1.88~2.51wt%と違いが見られた。糸魚川近郊を産地とするピンクの翡翠は見つけられなかったが、天然の鉱物としてはチューライトやクリノチューライトが見られ、それらがピンクの翡翠と勘違いされていることが確認された。
著者
上根 学 チャンドラー ラビ 古屋 正貴 畠 健一
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.36, 2014

英国のウイリアム王子からケイト妃に贈られた婚約指輪は,ブルー・サファイアである.ウイリアム王子の母であり,世紀のロイヤリティ・ウエディングといわれたダイアナ妃の左手に輝いていたものと同じブルー・サファイアである.このブルー・サファイアはスリランカのラトゥナプラ産であり,ラトゥナプラの宝石商からかつてエリザベス女王に献上されたものであった.2011年.スリランカのカタラガマで良質でしかも大粒のブルー・サファイアが産出されたことは記憶に新しい.今回,スリランカにおける良質なブルー・サファイアを産出する代表的な4つの鉱山,サバラガムワ県のラトゥナプラ,パルマドゥッラ,そしてウーバ県のオッカンベディア,新鉱区であるカタラガマを現地調査した.<br>各地区の鉱山数は現在,ラトゥナプラで約3000箇所,パルマドゥッラで約300箇所,オッカンベディアで50~60箇所,そして新鉱区となったカタラガマは10~20箇所で採掘されている.サンプル石の産地確認を徹底するために各鉱区の鉱山から直接原石を入手し,研磨,インクルージョン観察を試みた.更にFTIRにより,Fe,Ti,Ga,Crの成分分析,蛍光X分析を試みた.今回の現地調査の目的は,加熱処理,Be加熱処理が横行する中,確かなサンプル検査石を入手すること,そして各鉱区の品質をジェム・クオリティー,ジュエリー&bull;クオリティー,アクセサリー・クオリティーの3段階に分けそれぞれ3クオリティーのブルー・サファイアの出現率を調査することにあった.宝石の価格相場は,宝石の品質を評価し,その品質の出現率と需要できまる.今回,スリランカ産ブルー・サファイアの新鉱山を含む4鉱区を調査実施したので,その原産地状況を報告する.
著者
古屋 正貴 エリアス チャールズ M.
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.35, 2013

パラサイトに含まれるオリビンを宝石としてカットできるようになってから,市場でもパラサイト起源のペリドットが見られるようになった.これらはすでにいくつかの研究がされているが,この度,アメリカのAdmire隕石からカットされたペリドットを検査する機会を得たので,改めて通常の地球起源のペリドットとの比較,検証を行った.<BR> 検査としては拡大検査,屈折率,比重などの通常の鑑別検査と共に,蛍光X線での成分分析,FT-IRや紫外可視分光光度計などの分析機器を用いた検査を行い,その他にも磁石を用いての磁性の検査などを行った.<BR> パラサイト起源のペリドットに地球起源のものとの違いが見られた点としては,拡大検査のインクルージョンでは1) 周りの鉄質隕石が含まれたもの,2) 独特な針状インクルージョン,3) 地球起源のものではあまり見られない強いクリベージなどが認められた.また,屈折率と比重との関係において,パラサイト起源のものの方に比重が高くなる傾向がみられた.そのほか成分分析からは,パラサイト起源のものにニッケル分が低い特徴が見られた.またカット石では母岩と成る鉄質隕石をインクルージョンと含むものでは強い磁性も違いとして認められた.<BR> 数は少ないもののAdmire隕石以外の隕石との比較ではあまり有効な違いは見られなかった.これはそのペリドットの生成が,火星と木星のアステロイドベルトの小惑星同士の衝突によるもので,それが地球のどこに隕石として落ちたかの違いであり,由来自体には違いがないためと推測される.<BR> 上記のような違いがパラサイト起源のペリドットと地球起源のペリドットには認められ,それらを宝石鑑別上でも区別することが可能であることが分かった.<BR> 【参考文献】<BR>1. Leelawathanasuk, T., et al. "Pallasitic peridot: The gemstone from Outer Space" IGC 2011 Interlaken, Switherland<BR>2. Shen, A., et al. "Identification of extraterrestrial peridot by trace elements" Gem and Gemology, Fall 2011, United States<BR>3. Wikipedia, "Pallasite" Internet homepage
著者
高 興和 古屋 正貴
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.38, 2016

タンザナイトの色の評価については、タンザ ナイトファウンデーションが提唱する"Tanzanite Quality Scale"などが知られている。青系、紫 系と分けているところにタンザナイトならではの 特徴があるが、他の色石同様色の強さ(彩度)が高いものが良いとされている。 <br>この研究ではタンザナイトの色の評価となる 青、紫の強さがどのような要因で決定されるか考察し、色に影響をするものとしては、1)色の 原因であるVの含有量、2)加熱の有無、3)結 晶の方向(オリエンテーション)が考えられた。 <br>実験の結果、非加熱のものでは V の含有量 と色の間に相関関係は見られず、加熱のものでは図1のように V の含有量と色の強さに相 関関係が見られた。また、結晶の方向は色の 強さには関係せず、青か紫かを決定するよう に考えられた。この結果は加熱によって含有 される V による色が十分に発現したことによる と考えられる。また、逆にその V が含有量から 推測されるほどに発現していないことは、非加熱であることを示唆するとも考えられた。 <br>また、市場で"ファンシーカラー・タンザナイト"とも呼ばれるピンクやオレンジ、また緑色のも のについてもその色の原因を調べた。 ピンクやオレンジのものからは青、紫系のもの には見られない高い Mn の含有が確認された。 また同時に V の含有も確認され、加熱によってはより紫になったものも確認された。また、緑のものからは比較的高い濃度の Cr が検出 された。またサンプルの多くは加熱されており、 V の含有量が少ないこともあって加熱後も緑 色のままだった。 <br>このように青、紫系のタンザナイトは加熱の有 無と V の含有量によって、ピンク系のゾイサイ トは Mn、緑系のゾイサイトは Cr による着色であり、それらが複雑に影響し合い、色が発現していることが確認された。 <br>また、今年5月にブロック D の鉱山を視察し た。ブロック D では 100 人規模の大規模な採 掘が行われていたが、機械化はされておらず、 手作業による採掘によってすでに坑道が長さ 800m、深さ 450m に達するまで採掘が進められている。前年に報告を行った、ブロック B で はその半分程であったことから、ブロック D の 採掘の活発さが分かる。 <br>ブロック D から産出するタンザナイトはブロック Bのものに比べ色が強く、また透明度の高いものも多く、その高い品質から上記のような活発 な採掘が行われているものと考えられる。
著者
中嶋 彩乃 古屋 正貴
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨 2021年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
巻号頁・発行日
pp.57, 2021 (Released:2021-08-07)
参考文献数
1

ラベンダー・ジェダイトについてはPinkish Lavenderと表現されるものも報告されているが(Lu, 2012)、主たる色がピンクの天然のジェダイトについての報告は少ない。天然のピンク・ジェダイトと思われるものを検査する機会を得たので、その宝石学的特徴やマンガンによる色について報告したい。10年ほど前にミャンマー産という、上記の写真のような円盤状のルース(現地名:壁)3点、カボションカット6点のピンク・ジェダイトを入手することが出来た。ピンクのジェダイトには有色樹脂によって着色されたものも多く流通し、当該石についても同様の処理が疑われた。しかし、着色の特徴となるような、色素の色溜まりや鮮やかなオレンジの蛍光はなく、蛍光もラベンダー・ジェダイトで見られる微かなオレンジものもだけだった。また、FT-IRの透過検査でもジェダイトの着色にしばしば用いられる樹脂による吸収は見られず、ワックスの吸収があるか、それすら見られないものであった。紫外可視分光スペクトルでも、着色による500~550nmの強い吸収は見られず、 540nm前後をピークとする弱い吸収が見られたのみだった。ラベンダー・ジェダイトでは同様のピークが 570nm付近がピークであり、ピーク波長は異なるが、似たような吸収が確認された。ピンク・ジェダイトといっても白い脈の部分もあり、白色部分とピンク部分の微量元素を比較したところ、蛍光 X線成分分析では主だった差は確認されなかった。しかし、 ICP-MSでさらに微量な成分を調べると、ピンク部分からは 20~40ppmの Mnが検出されたが、白色部分では 5ppm以下であった。その他にもラベンダー・ジェダイトとの比較では Feが少ない傾向が見られた。このため、ピンク色は微量なMnによるものでかつ Feが少ないことによるものと考えられた。
著者
中嶋 彩乃 古屋 正貴
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会誌 (ISSN:03855090)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.51, 2018

<p>2016 年7月に開催された中国国内最大の中国人バイヤー向け石の博覧会「中国昆明泛亜石博覧会」に招待され出展し、雲南省昆明近郊から産出する宝石・鉱物及び石材に触れる機会を得た。雲南省ではルビー・サファイア・エメラルドをはじめとし、多数の宝石や鉱物が産出されており、大理石等の石材も数多く産出されている。</p><p>会場では日本ではあまりなじみのない中国産の宝石・鉱物・石材が多数出展され、その中に石林彩玉や黄龍玉と呼ばれていた宝石があった。石林彩玉は産地を訪れる機会も得られ、調査を行った。</p><p>石林彩玉と呼ばれる宝石は、中国雲南省昆明市石林県イ族自治県から産出する赤、橙、黄色、暗緑色で不透明のアゲートである。特徴的なのはその名前の通り、色鮮やかなスポットが複雑に入り組んだ外観をしていることである。(図1)その天然の模様を活かしたカットが施され、流通している。その色の原因となっているのはニッケル、コバルト、クロム、マンガン、銅、鉄などの微量元素で、赤色や黄色が強い部位では鉄が微量元素として検出され、また、暗緑色の部位ではクロムが検出され、それらが色の原因となっていることが考えられる。</p><p>黄龍玉と呼ばれる宝石も、めのうであるがこちらは半透明黄色のカルセドニーである。雲南省保山市龍陵県小黒山を代表的な産地とするこの宝石は、石林彩玉のようなカラフルなものとは違い、黄色の濃淡の模様がたまに見られるだけである。こちらは彫刻に用いられたり、半透明の風合いや模様を生かしてカットされる(図 2)。微量元素としては鉄が検出されるのみでそれが黄色の原因となっていることが推測される。</p><p>黄龍玉は黄色を貴ぶ中国の玉文化の中で、現在翡翠に次ぐ石とされ、黄龍玉専門のオークションも開催され、多数のコレクターを有する。</p><p>また石林彩玉は、雲南省が積極的なプロモーションを行っており、全国で展開されている。</p><p>そのため、これらについて知識を持っておくことも必要と考えられる。</p>
著者
高 興和 古屋 正貴
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨 平成28年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
巻号頁・発行日
pp.11, 2016 (Released:2016-08-31)

タンザナイトの色の評価については、タンザ ナイトファウンデーションが提唱する"Tanzanite Quality Scale"などが知られている。青系、紫 系と分けているところにタンザナイトならではの 特徴があるが、他の色石同様色の強さ(彩度)が高いものが良いとされている。 この研究ではタンザナイトの色の評価となる 青、紫の強さがどのような要因で決定されるか考察し、色に影響をするものとしては、1)色の 原因であるVの含有量、2)加熱の有無、3)結 晶の方向(オリエンテーション)が考えられた。 実験の結果、非加熱のものでは V の含有量 と色の間に相関関係は見られず、加熱のものでは図1のように V の含有量と色の強さに相 関関係が見られた。また、結晶の方向は色の 強さには関係せず、青か紫かを決定するよう に考えられた。この結果は加熱によって含有 される V による色が十分に発現したことによる と考えられる。また、逆にその V が含有量から 推測されるほどに発現していないことは、非加熱であることを示唆するとも考えられた。 また、市場で"ファンシーカラー・タンザナイト"とも呼ばれるピンクやオレンジ、また緑色のも のについてもその色の原因を調べた。 ピンクやオレンジのものからは青、紫系のもの には見られない高い Mn の含有が確認された。 また同時に V の含有も確認され、加熱によってはより紫になったものも確認された。また、緑のものからは比較的高い濃度の Cr が検出 された。またサンプルの多くは加熱されており、 V の含有量が少ないこともあって加熱後も緑 色のままだった。 このように青、紫系のタンザナイトは加熱の有 無と V の含有量によって、ピンク系のゾイサイ トは Mn、緑系のゾイサイトは Cr による着色であり、それらが複雑に影響し合い、色が発現していることが確認された。 また、今年5月にブロック D の鉱山を視察し た。ブロック D では 100 人規模の大規模な採 掘が行われていたが、機械化はされておらず、 手作業による採掘によってすでに坑道が長さ 800m、深さ 450m に達するまで採掘が進められている。前年に報告を行った、ブロック B で はその半分程であったことから、ブロック D の 採掘の活発さが分かる。 ブロック D から産出するタンザナイトはブロック Bのものに比べ色が強く、また透明度の高いものも多く、その高い品質から上記のような活発 な採掘が行われているものと考えられる。
著者
中嶋 彩乃 古屋 正貴
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.37, 2015

近年、ファセットカットされたビーズがジュエリーのチェーンの代わりに使われ始めているが、それに伴い新しい問題も起きている。下の写真のブラックスピネルのビーズでは、ペンダントのバチカンに当たる部分が摩耗されて他の部分に比べて明らかに輝きが弱くなっている。このような地金とビーズの摩耗の特徴と対策を調べるため、各種摩耗に関する実験を行った。<br> 実験にはブラックダイアモンド、ブラックスピネル、ブラックカルセドニーのビーズを用意した。1)まず、地金側の傷を調べるため、Pt900(割金Pd10%)、K18金(割金Ag15%, Cu10%)、K18ホワイトゴールド(割金Ag11%, Pd8%,Cu4%,Zn2%)および銀(SV925, 割金Cu7.5%)の板と擦り合わせた。続いて石側の傷を調べるため、2)金、および銀で出来た半円形の棒と擦り合わせを行った。3)また共擦りを調べるためビーズの連を平行に束ねた状態と編み込んだ状態で擦り合わせを行った。同じ条件下で比較するため、電動サンダー(毎分13000回転)を用い、機械の自重(約1kg)で決まった時間擦り合わせた。<br> 1)の地金の板との擦り合わせ実験では、地金側にダイアモンド>スピネルの順に深い傷がつき、カルセドニーではほぼ傷はつかなかった。地金はSV925≒Pt900 >K18ホワイト>K18の順に傷がついた。石側はカルセドニーを含め、あまり傷は生じなかった。<br> 2)の地金の棒との擦り合わせ実験では、金、銀ともにダイアモンドには目立った傷が見られず、ブラックスピネルではエッジの摩耗が見られ、カルセドニーではわずかな面傷が見られた。硬度の高いものは傷はつきにくいのだが、スピネルは地金より硬度は高いにもかかわらず、当たり傷としてエッジの摩耗が生じたためと解釈される。また、エッジの摩耗は硬度の低いカルセドニーでは目立たなかったが、これは使用したサンプルが元よりあまりエッジを立てないカットが行われていたため、目立たなかったものと考えられる。<br> 3)の共擦りを調べる実験では編み込んだものでスピネルは激しいエッジの摩耗、面傷が見られ、カルセドニーでは面傷が見られ、ダイアモンドではあまり傷は目立たなかった。また、平行にしたものではどれも比較的傷は少なかった。これも先のものと同じ理由と考えられるが、スピネルの摩耗が特に激しかった。<br> これらの対策としては、地金とビーズがあまり当たらないデザインにすること、ビーズ同士に力がかからないデザインにすること、エッジをあまり立てないカットを用いることなどが考えられる。<br>謝辞:株式会社八紘商会(地金試料提供)
著者
中嶋 彩乃 古屋 正貴
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨 2019年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
巻号頁・発行日
pp.11, 2019 (Released:2019-07-03)
参考文献数
3

2018 年の宝石学会(日本)でカラーチェンジ・ガーネットについて考察した中で、マダガスカル Bekily から産出するパイロープ-スペサルティン・ガーネットには、バナジウムを多く含有することで、ガーネットには存在しないとされた青色を、D65 光源下では示すものを紹介した。それはまさにアーサー・コナン・ドイルの小説 「The adventure of the blue carbuncle」 で描かれた青いカーバンクルを連想させるものだった。しかし、その内容や時代背景を考えるとドイルのブルー・カーバンクルは、青いカーバンクル(ガーネット)というよりブルー・ダイアモンドとして有名なホープ・ダイアモンドがそのモデルとなっていると考えられ、検証を行った。ドイルが描いたブルー・カーバンクルにはガーネットより、ホープ・ダイアモンドとの多くの共通点が見られる。第一に、青いカーバンクル(ガーネット)は、当時存在を知られていなかったこと。第二に、その宝石についてホープ・ダイアモンドと共通する記述が多くあること。第三に、その小説が発表された 1892 年以前に、ホープ・ダイアモンドはドイルの住むイギリスで所有されており、人々の注目を浴びるものであったことである。第一の、青いガーネットの存在が知られていなかったことは、Bekily のカラーチェンジ・ガーネットの発見が 1999 年のことであり、他のカラーチェンジ・ガーネットについて報告されたのも 1970 年代以降のことであることから、当時は青いガーネットは認識されていなかったことがわかる。(K. Schmetzer 1999)第二のホープ・ダイアモンドとの共通点については、結晶した炭素であること(”crystallized charcoal”)、ガラスをパテのようにカットすること(”It cuts into glass as though it were putty”)、ブリリアンシーのあるシンチレーションが強い青い石であること(”brilliantly scintillating blue stone”)などの記述が当てはまることなどである。第三の時代背景については、この小説が発表されたのは 1892 年であるが、それ以前のホープ・ダイアモンドについて調べると、1851 年のロンドン万国博覧会で公開されており、広く人々の注目を集めている。そして 1887 年には Henry Thomas Hope 氏の孫の Francis Hope 氏が相続することが裁判で決定される中、相続問題と裁判が数多く報道された。そのため、執筆時のドイルの目に触れたことは容易に想像できる。このような観点から、ドイルが小説の中で描いたブルー・カーバンクルは、ホープ・ダイアモンドがモチーフになったと考える。
著者
中嶋 彩乃 古屋 正貴
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.36, 2014

ルビーとレッドスピネルを現在の一般的評価で比較すると,ルビーはいわゆる貴石に含まれ,スピネルは半貴石に含まれるなど,評価はルビーの方が高いと言えよう.<br>しかし,歴史を振り返ると多くの人々を魅了してきたロイヤルジュエリーに使用されてきた宝石が,実はルビーではなくレッドスピネルであったことが,後に判明したことが何度もあった.後にスピネルと判明したロイヤルジュエリーとしては,Imperial State Crownの黒太子のルビー,エカチェリーナ2世の王冠のレッドスピネル,チムールルビーなどが挙げられる.これらはスピネルと分かるまでルビーとして人々のあこがれを集めてきた.<br>一方,ルビーでは,196.10ctsのHixon Rubyや,The Rosser Reeves Star Ruby 138.7cts など100ctを超えるような原石やスタールビーも知られているが,これらはルースや原石自体として博物館に所蔵・展示されているものであり,王室など著名人のジュエリーとしては使われてはいない.<br>ロイヤルジュエリーとして人々の目に触れてきたものとはしては,10~15ctsと推測されるStuart Coronation ringのルビーや,ナポレオンの妹ポリーヌ・ボナパルトのためにつくられたパリュールに使われた数ctsの複数のルビーからなるBorghese Ruby等があり,どれも素晴らしいものであるが,ルビーの大きさも限られており,レッドスピネルのように一つの石が大きく,一石がジュエリーに強いインパクトを与えられるものではなかった.<br>このようなことから,ロイヤルジュエリーに用いられてきた有名なルビーと言われてきたものの中には,レッドスピネルだったものがあり,それらがルビーとして人々の羨望を受け,人々のあこがれを喚起されてきた.ロイヤルジュエリーにおいて,ルビーとして活躍したスピネルの役割は大きいと言えるだろう.<br>謝辞)<br>アルビオンアート株式会社<br>Dr. Jack Ogden
著者
古屋 正貴
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.36, 2014

宝石における変色性は宝石鑑別団体協議会の定義のように,自然光で緑&sim;青緑色,電灯光(A光源)で赤&sim;紫赤色に変化するものが一般的であるが,それ以外にも色が変わったり,変わって見える宝石がある.昨今宝石のさまざまな特性が注目される中でこれまでの変色性とは異なる色の変化を示すものについていくつか紹介したい.<br>光の当たることで色が変わって見える宝石がある.パキスタンの石全体に微少インクルージョンを含むピンクサファイアは,白い光を受けるとその微小インクルージョンが光を散乱して,青色を帯びる.これは青いシラーの出るムーンストーンと同じでレイリー散乱によるものである.また,この効果はスリランカ産のピンクサファイアやタジキスタン産のルビーでも見られる.<br>似たように光が当たることで色が変わって見える効果はアンデシンでも見られる.緑のアンデシンでは同じファイバー光を当てても,石を透過すると緑色で,石に反射すると橙赤色になる.透過法と反射法で紫外-可視分光を測定すると図1(PDFのFigure.1を参照)のようになる.その仕組みとしては内包される微小な銅片に光が反射すると橙赤色に発色し,透過光では微小な影として色に影響を与えないものと考えられる.<br>また,近年見られるスキャポライトは,極めて明瞭なテンブレッセンスを示す.この石のテネブレッセンスは,無色だったものが10秒ほどの短波紫外線照射で,鮮やかな帯紫青色に変わる.(PDFのFigure.2を参照)また,この帯紫青色は強い可視光を当てると数秒で元に戻るという可逆性もある.<br>このように色が変わったり,変わって見える宝石はいろいろあり,それが宝石の特徴となっている.